
再生医療等を提供している医療機関では、定期報告、疾病等報告、変更届だけでなく、「不適合」への対応も重要です。
不適合とは、簡単にいえば、再生医療等が施行規則または再生医療等提供計画に適合していない状態をいいます。厚生労働省は、不適合について、施行規則または再生医療等提供計画、研究計画書等の不遵守をいい、逸脱や、研究として再生医療等を行う場合の研究データの改ざん・ねつ造等を含むと説明しています。
つまり、不適合は、必ずしも「患者に健康被害が出た場合」だけを指すものではありません。
提供計画に記載された対象患者、投与方法、投与量、評価方法、説明同意、記録管理などと、実際の運用がずれている場合には、不適合に該当する可能性があります。
本記事では、再生医療等の不適合報告について、医療機関が実務上注意すべきポイントを解説します。
1. 不適合は「事故」だけではなく「計画からの逸脱」も含む
不適合という言葉を聞くと、重大な事故や患者被害をイメージするかもしれません。
しかし、再生医療等における不適合は、それだけではありません。
たとえば、次のようなケースでは、不適合に該当する可能性があります。
・提供計画に記載していない対象疾患に実施した
・選択基準を満たさない患者に実施した
・除外基準に該当する患者に実施した
・計画と異なる投与量で実施した
・計画と異なる投与回数で実施した
・計画と異なる投与間隔で実施した
・説明同意文書の内容が最新の計画と一致していなかった
・同意取得前に必要な手続きが完了していなかった
・実施医師として登録されていない医師が実施した
・予定していたフォローアップや評価を行っていなかった
・使用ロットや細胞加工物の記録が残っていなかった
これらは、患者に健康被害が出ていなくても、提供計画どおりに再生医療等が実施されていない状態と考えられる可能性があります。
再生医療等提供計画は、単なる提出書類ではなく、医療機関が安全かつ適切に再生医療等を提供するための運用設計書です。
そのため、実際の運用が計画とずれていないかを、日頃から確認しておく必要があります。
2. 「重大な不適合」と通常の不適合を区別する
不適合の中でも、特に重要なのが「重大な不適合」です。
厚生労働省は、重大な不適合について、細胞提供者または再生医療等を受ける者の人権や安全性、または結果の信頼性に影響を及ぼす不適合をいい、選択・除外基準、中止基準、併用禁止療法等の不遵守などを例示しています。なお、再生医療等を受ける者の緊急の危険を回避するため、その他医療上やむを得ない理由により提供計画に従わなかったものは、重大な不適合には含まれないとされています。
実務上、次のようなケースでは、重大な不適合に該当する可能性を慎重に検討する必要があります。
・除外基準に該当する患者に投与した
・選択基準を満たしていない患者に投与した
・投与してはいけない併用療法を行っていた
・提供計画と異なる投与方法で実施した
・安全性に影響し得る投与量の変更を、手続きなく行った
・同意を適切に取得しないまま実施した
・患者の意思決定に重要な情報を説明していなかった
・品質確認が不十分な細胞加工物を投与した
・計画外の製造工程やCPCを用いた
・記録の欠落により、結果の信頼性を確認できなくなった
特に、患者の安全性、同意の有効性、治療結果の信頼性に関わるものは、単なる事務ミスとして処理すべきではありません。
3. 不適合を知った医師は、速やかに管理者・実施責任者へ報告する
不適合が判明した場合、まず重要なのは、院内で速やかに共有することです。
厚生労働省は、再生医療等を行う医師または歯科医師が、再生医療等が不適合であると知ったときは、再生医療等提供機関の管理者および実施責任者に対し、速やかにその旨を報告しなければならないと説明しています。また、実施責任者が不適合を知った場合にも、管理者へ報告する必要があります。
つまり、不適合を現場の担当者だけで処理してはいけません。
たとえば、実施医師が「今回は大きな問題ではない」と判断して、管理者や実施責任者に共有しないまま終わらせてしまうと、後から定期報告や立入検査の際に問題となる可能性があります。
不適合が疑われる場合は、まず次の情報を整理することが重要です。
・発生日時
・発生場所
・対象となる提供計画
・患者への影響の有無
・不適合の内容
・発生した理由
・関係する医師、スタッフ、CPC
・提供計画のどの部分から逸脱しているか
・疾病等報告の要否
・再発防止策の方向性
最初の段階では、すべての事実関係が確定していなくても構いません。
重要なのは、疑いを把握した時点で、院内で共有し、調査と判断を開始することです。
4. 重大な不適合が判明した場合は、速やかに委員会の意見を聴く
不適合のうち、重大な不適合が判明した場合には、対応がさらに重要になります。
厚生労働省は、再生医療等提供機関の管理者は、不適合であって特に重大なものが判明した場合、速やかに認定再生医療等委員会の意見を聴かなければならないと説明しています。また、認定再生医療等委員会が重大な不適合の報告に関して意見を述べたときは、委員会の設置者が遅滞なく厚生労働大臣に報告しなければならないとされています。
重大な不適合の場合、医療機関としては、次のような対応を検討する必要があります。
・患者への影響確認
・必要な診察、検査、フォローアップ
・提供継続の可否
・同一計画の他症例への影響確認
・同一ロット、同一工程、同一CPCへの影響確認
・原因究明
・再発防止策の作成
・委員会への報告資料作成
・必要に応じた疾病等報告
・必要に応じた変更届、軽微変更届
重大な不適合は、患者の安全性だけでなく、医療機関の運用体制や再生医療等の継続可否にも関わります。
発生後の対応が遅れると、問題が拡大する可能性があります。
5. 不適合が発生しても、直ちに「違法」と決まるわけではない
不適合という言葉は重く聞こえます。
しかし、不適合が発生したからといって、直ちに悪質な違反と評価されるとは限りません。
実務上は、提供計画に沿って運用していても、記録漏れ、説明文書の版管理ミス、評価時期のずれ、患者都合によるフォローアップ未実施などが発生することがあります。
重要なのは、不適合を隠さず、適切に把握し、原因を確認し、再発防止策を講じることです。
たとえば、次のような対応が考えられます。
・事実関係を記録する
・患者への影響を確認する
・提供計画との差分を確認する
・重大な不適合に該当するか検討する
・疾病等報告の要否を確認する
・必要に応じて委員会に相談する
・再発防止策を文書化する
・定期報告で不適合の発生状況とその後の対応を報告する
不適合への対応は、医療機関の誠実な運用管理を示す機会でもあります。
問題があるのは、不適合が発生したこと自体よりも、不適合を把握していながら報告・改善しないことです。
6. 定期報告でも不適合の発生状況を記載する
不適合は、重大なものだけを管理すればよいわけではありません。
厚生労働省は、定期報告において、再生医療等に係る施行規則または再生医療等提供計画に対する不適合の発生状況およびその後の対応を、認定再生医療等委員会への報告事項として示しています。
そのため、重大な不適合に該当しない場合でも、定期報告の際に整理が必要になることがあります。
たとえば、次のようなものです。
・評価予定日に来院せず、評価時期がずれた
・症例一覧への記録が一部不足していた
・説明同意文書の版管理に不備があった
・フォローアップ記録が十分でなかった
・投与量や投与部位の記録が不十分だった
・CPCから取得すべきロット情報の保管が遅れた
・提供計画の記載と院内マニュアルの表現が一致していなかった
これらがすべて重大な不適合になるわけではありません。
しかし、定期報告の段階で、発生状況、患者への影響、原因、再発防止策を整理しておく必要があります。
7. 疾病等報告と不適合報告は別の観点で判断する
疾病等報告と不適合報告は、混同されやすい手続きです。
疾病等報告は、再生医療等の提供に起因するものと疑われる疾病、障害、死亡、感染症などが発生した場合の報告です。
一方、不適合報告は、再生医療等が施行規則または提供計画に適合していない状態に関する報告です。
たとえば、次のように整理できます。
・提供計画どおりに投与したが、投与後に入院を要する症状が発生した
→ 疾病等報告の要否を検討する
・提供計画と異なる投与量で投与したが、健康被害は発生していない
→ 不適合としての対応を検討する
・提供計画と異なる投与方法で実施し、その後に患者に重篤な症状が発生した
→ 不適合報告と疾病等報告の両方を検討する
厚生労働省の重大な不適合報告書の記載要領でも、不適合の発生が提供後に判明し、再生医療等を受けた者に疾病等が発生した場合には、併せて疾病等報告書を定められた期日までに提出することとされています。
つまり、疾病等報告と不適合報告は、どちらか一方だけを考えるのではなく、事案によっては両方を検討する必要があります。
8. よくある不適合の具体例
医療機関で実際に起こりやすい不適合には、いくつかのパターンがあります。
対象患者に関する不適合
・除外基準に該当する患者に実施した
・診断基準を満たしていない患者に実施した
・対象疾患として記載していない症状に実施した
・年齢基準を満たしていない患者に実施した
投与内容に関する不適合
・計画と異なる細胞数を投与した
・計画と異なる投与液量で実施した
・計画と異なる投与間隔で再投与した
・最大投与回数を超えて実施した
・計画にない部位へ投与した
説明同意に関する不適合
・古い版の説明同意文書を使用した
・委員会で承認された説明文書と異なるものを使用した
・費用や補償に関する説明が不足していた
・同意取得日と施術日の記録が不整合だった
記録管理に関する不適合
・ロット番号が記録されていない
・CPCからの出荷情報が保管されていない
・投与量や投与部位の記録が不十分
・有害事象の確認記録が残っていない
・定期報告に必要な評価指標が取得されていない
変更管理に関する不適合
・実施医師の追加手続き前に治療を実施した
・CPCの製造工程変更を提供計画に反映していなかった
・説明同意文書を変更したが、必要な確認をしていなかった
・費用表を変更したが、説明文書と整合していなかった
このような不適合は、日常業務の中で発生しやすいものです。
そのため、個人の注意力だけに頼るのではなく、院内の仕組みとして防止する必要があります。
9. 不適合が発生した場合に確認すべき事項
不適合が発生した場合、まず行うべきことは、事実関係の整理です。
次の事項を確認すると、報告要否や再発防止策を検討しやすくなります。
・どの提供計画に関する不適合か
・いつ発生したか
・いつ判明したか
・誰が把握したか
・どの患者に影響があるか
・既に投与が行われているか
・投与前に判明したのか、投与後に判明したのか
・患者の健康への影響はあるか
・疾病等報告の要否はあるか
・重大な不適合に該当する可能性はあるか
・原因は何か
・同様の事案が他症例にもあるか
・CPCや外部業者が関係しているか
・提供継続の可否を検討する必要があるか
・再発防止策として何を行うか
重大な不適合報告書の記載要領でも、不適合の内容について具体的な経過が分かるように記載すること、不適合により患者等にどのような影響が生じたかを客観的事実として記載すること、不適合が発生した理由について原因究明の方法、結果、考察を記載し、再発防止策は原因究明の結果を踏まえて実効的な対策を記載することが求められています。
10. 不適合を防ぐために医療機関が整えるべき体制
不適合を防ぐためには、治療開始後の運用管理が重要です。
特に、複数の医師、看護師、受付、事務担当者、CPC、外部支援者が関与する場合、情報共有が不十分だと不適合が起こりやすくなります。
医療機関では、次のような体制を整えておくとよいです。
・提供計画ごとの運用マニュアルを作る
・対象疾患、選択基準、除外基準をチェックリスト化する
・説明同意文書の版管理を行う
・実施医師の一覧を管理する
・投与量、投与細胞数、投与回数を症例一覧で管理する
・CPCからの出荷情報、ロット情報を保管する
・フォローアップ予定を管理する
・変更がある場合の事前確認ルールを作る
・有害事象、不適合の院内報告ルートを明確にする
・定期的に提供計画と実際の運用を照合する
再生医療等では、書類を作って提出することよりも、提出した計画どおりに運用し続けることの方が難しい場合があります。
そのため、不適合対策は、導入後の運用支援として非常に重要です。
まとめ
再生医療等の不適合報告で注意すべきポイントは、次のとおりです。
・不適合とは、施行規則または再生医療等提供計画に適合していない状態をいう
・患者に健康被害が出ていなくても、不適合に該当する場合がある
・重大な不適合は、患者の人権、安全性、結果の信頼性に影響を及ぼすものをいう
・不適合を知った医師は、管理者および実施責任者へ速やかに報告する必要がある
・重大な不適合が判明した場合、管理者は速やかに認定再生医療等委員会の意見を聴く必要がある
・疾病等が発生している場合は、疾病等報告も併せて検討する
・定期報告では、不適合の発生状況とその後の対応も整理する必要がある
・不適合を防ぐためには、院内のチェックリスト、版管理、記録管理、変更管理が重要である
不適合対応は、医療機関を責めるための手続きではありません。
提供計画どおりに安全に再生医療等を実施し、問題が生じた場合には速やかに把握し、再発防止につなげるための重要な管理手続きです。
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