
再生医療等を提供している医療機関では、提供計画の提出、定期報告、変更届などに加えて、「疾病等報告」への対応も非常に重要です。
疾病等報告とは、再生医療等の提供に起因するものと疑われる疾病、障害、死亡、感染症などが発生した場合に、所定の期限内に報告を行う手続きです。
ここで重要なのは、疾病等報告は、年1回の定期報告とは別の手続きであるという点です。
「定期報告のときにまとめて報告すればよい」と考えてしまうと、報告期限を過ぎてしまう可能性があります。
また、PRP療法、脂肪由来幹細胞治療、線維芽細胞治療、免疫細胞療法などでは、治療後に発熱、疼痛、腫脹、感染疑い、体調不良、入院を要する症状などが発生することがあります。
その際に、医療機関が「報告対象かどうか」「いつまでに報告すべきか」「委員会と厚生局のどちらに報告するのか」を判断できる体制を整えておくことが重要です。
本記事では、再生医療等の疾病等報告について、医療機関が実務上注意すべきポイントを解説します。
1. 疾病等報告は、患者安全に関わる重要な手続き
再生医療等安全性確保法では、再生医療等提供機関の管理者は、再生医療等提供計画に記載された再生医療等の提供に起因するものと疑われる疾病、障害、死亡、感染症の発生を知ったとき、所定の報告を行う必要があります。
つまり、疾病等報告は、単なる事務手続きではありません。
患者に健康被害が生じた可能性がある場合に、医療機関、認定再生医療等委員会、厚生労働省または地方厚生局が、速やかに状況を把握し、必要な対応を検討するための制度です。
再生医療等では、細胞加工物、投与方法、患者背景、併用治療、製造工程、保管・輸送、投与後管理など、複数の要素が関係します。
そのため、疾病等が発生した場合には、単に「一時的な体調不良」として処理するのではなく、再生医療等との関連性、重篤性、感染症の可能性、製造工程との関係などを確認する必要があります。
2. 報告対象は「因果関係が確定したもの」だけではない
疾病等報告で特に注意すべきなのは、「再生医療等の提供に起因するものと疑われる」疾病等が対象になるという点です。
つまり、因果関係が完全に証明された場合だけが報告対象になるわけではありません。
たとえば、次のようなケースでは、報告対象となる可能性を検討する必要があります。
・投与後に発熱、悪寒、嘔気などの全身症状が出た
・投与部位に強い腫脹、疼痛、発赤が生じた
・感染症が疑われる症状が出た
・入院または入院期間の延長が必要になった
・障害につながるおそれのある症状が出た
・死亡または死亡につながるおそれのある症例が発生した
・複数の患者に類似した症状が発生した
・同一ロット、同一製造工程、同一CPCに関連する症状が複数見られた
もちろん、すべての軽微な症状が直ちに厚生局への報告対象になるわけではありません。
しかし、「因果関係がまだ分からないから報告しない」と判断するのは危険です。
疑いがある段階で、重篤性や報告期限を確認し、必要に応じて委員会や所管厚生局に相談する体制を整えておくことが重要です。
3. 死亡・死亡につながるおそれがある症例は7日以内
疾病等報告では、発生した疾病等の内容によって報告期限が異なります。
厚生労働省は、再生医療等の提供によるものと疑われる死亡、または死亡につながるおそれのある症例について、7日以内に厚生労働大臣または地方厚生局長、および認定再生医療等委員会へ報告する必要があると示しています。
これは、もっとも緊急性の高い報告区分です。
たとえば、再生医療等の提供後に患者が死亡した場合、または生命に関わる重篤な状態となった場合には、速やかに事実関係を確認し、報告期限を意識して対応する必要があります。
この場合に重要なのは、すべての情報が完全にそろうまで待たないことです。
発生状況、患者の状態、講じた措置、現時点で把握している情報を整理し、必要に応じて追加報告や原因究明を行う形で対応することが考えられます。
4. 入院を要する症例、障害、重篤な症例などは15日以内
死亡または死亡につながるおそれのある症例以外でも、重い疾病等が発生した場合には、15日以内の報告が必要になります。
厚生労働省は、治療のために医療機関への入院または入院期間の延長が必要とされる症例、障害、障害につながるおそれのある症例、重篤である症例、後世代における先天性の疾病または異常について、15日以内に報告する必要があると示しています。
実務上は、次のようなケースで注意が必要です。
・投与後の感染疑いにより入院した
・強い炎症反応により入院管理が必要になった
・神経症状が出現した
・血栓、塞栓、アレルギー反応などが疑われた
・症状が重く、他院での精査や治療が必要になった
・患者の生活機能に影響する症状が出た
特に、脂肪由来幹細胞の静脈投与などでは、発熱、悪寒、嘔気、めまい、神経症状、肺塞栓を疑う症状などについて、投与との関連性を慎重に確認する必要があります。
また、PRP療法でも、投与部位の感染、強い疼痛、関節炎症状などが生じた場合には、重篤性や入院の有無を確認する必要があります。
5. その他の疾病等は、定期報告時に委員会へ報告する
死亡、死亡につながるおそれ、入院を要する症例、障害、重篤な症例などに該当しない疾病等については、定期報告時に認定再生医療等委員会へ報告することになります。
厚生労働省は、上記に掲げる疾病等を除く、再生医療等の提供によるものと疑われる疾病等または感染症による疾病等について、定期報告時に認定再生医療等委員会へ報告するものと示しています。
ここで注意すべきなのは、「定期報告時でよいもの」と「7日以内・15日以内に報告すべきもの」を区別することです。
たとえば、軽度の疼痛や一過性の腫脹などで、重篤性がなく、入院も不要で、経過観察で改善した場合には、定期報告時の整理で足りる可能性があります。
一方で、症状が軽く見えても、感染症が疑われる、複数患者に同じ症状が出ている、製造ロットや工程との関連が疑われる場合には、慎重な判断が必要です。
6. 特定細胞加工物等を用いた場合は、製造事業者への通知も必要
疾病等が発生した場合、報告先は委員会や厚生局だけではありません。
特定細胞加工物等を用いた場合には、当該特定細胞加工物等の製造事業者に対して、発生した事態および講じた措置について速やかに通知しなければならないとされています。医薬品または再生医療等製品を用いた場合には、その製造販売業者への通知も必要です。
これは、CPCが原因究明に必要な情報を保有している可能性があるためです。
たとえば、次のような情報は、CPCとの連携が必要になることがあります。
・使用したロット番号
・製造日、出荷日
・培養工程
・品質管理試験の結果
・無菌試験、マイコプラズマ試験、エンドトキシン試験の結果
・輸送記録
・温度管理記録
・同一ロットまたは類似工程の他症例の状況
・製造工程上の逸脱、不適合、瑕疵の有無
疾病等が発生した場合には、医療機関だけで原因を判断するのではなく、CPCと連携して、製造工程や品質管理との関連も確認する必要があります。
7. 疾病等報告書の様式と提出先を確認する
疾病等報告では、委員会報告用と厚生労働大臣報告用の様式があります。
厚生労働省の様式一覧では、別紙様式第1として「疾病等報告書(委員会報告用)」、別紙様式第2として「疾病等報告書(厚生労働大臣報告用)」が示されています。
また、第2種・第3種再生医療等の場合、疾病等報告書の提出先は、再生医療等提供計画に記載された認定再生医療等委員会および所在の地域を管轄する地方厚生局とされています。
e-再生医療でも、提出済みの提供計画に関するその他の提出様式として、疾病等報告書が掲載されています。
実務上は、次の流れで確認するとよいです。
・発生した症状や事象を把握する
・重篤性、入院の有無、感染症の可能性を確認する
・7日以内、15日以内、定期報告時のいずれに該当するか確認する
・委員会報告用の様式を確認する
・厚生局報告用の様式を確認する
・CPCまたは製造販売業者への通知要否を確認する
・報告後も原因究明と追加情報の整理を行う
疾病等報告は、症状が発生してから期限が進みます。
そのため、様式の確認や提出方法の確認を事前に行っておくことが重要です。
8. 令和8年4月の緊急命令から分かる実務上の注意点
疾病等報告の重要性は、近年の行政対応からも明らかです。
令和8年4月21日に厚生労働省が公表した緊急命令では、自家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた慢性疼痛の治療について、少なくとも5名が提供後に悪寒、発熱、嘔気等の体調不良を訴え、うち少なくとも1名が入院加療を要したにもかかわらず、疾病等報告や原因究明等を行わないまま提供を継続していたことが指摘されています。
この事例から、医療機関が学ぶべきポイントは明確です。
・患者の体調不良を軽視しない
・複数患者に類似症状が出た場合は、早急に原因を確認する
・入院を要する症例では、疾病等報告の要否を直ちに検討する
・CPCとの関連、製造工程、品質管理との関係を確認する
・原因究明が不十分なまま提供を継続しない
・医療機関が主体的に判断し、外部事業者任せにしない
再生医療等では、疾病等が発生した後の対応が、その後の行政対応や医療機関の信頼に大きく影響します。
報告を行うこと自体が「治療に問題があった」と確定することではありません。
むしろ、適切に報告し、原因を確認し、必要な対応を行うことが、医療機関を守ることにもつながります。
9. 疾病等が発生したときに医療機関が最初に行うべきこと
疾病等が発生した場合、医療機関はまず患者の安全確保を最優先に対応する必要があります。
そのうえで、再生医療等の手続きとして、次の事項を速やかに確認します。
・患者の症状
・発生日、発生時刻
・再生医療等の提供日
・投与した細胞加工物の内容
・投与量、投与細胞数
・ロット番号
・使用したCPC、製造施設
・入院の有無
・重篤性
・感染症の疑い
・既往歴、併用薬、併用治療
・治療との因果関係の可能性
・講じた措置
・現在の転帰
・CPCへの通知状況
・委員会、厚生局への報告要否
この情報を整理することで、報告期限の判断、報告書作成、CPCとの原因究明、委員会への説明がしやすくなります。
重要なのは、現場の医師だけに判断を任せきりにしないことです。
再生医療等の管理者、実施責任者、事務担当者、CPC担当者が連携して、報告要否を判断する体制が必要です。
10. 院内で疾病等報告フローを作っておく
疾病等報告は、実際に事象が発生してから準備を始めると、判断が遅れる可能性があります。
そのため、再生医療等を提供している医療機関では、あらかじめ疾病等報告フローを作っておくことが重要です。
院内で整備すべき事項としては、次のようなものがあります。
・有害事象が発生した場合の院内連絡先
・実施医師から管理者への報告ルート
・CPCへの連絡方法
・委員会への相談窓口
・厚生局への確認方法
・7日以内、15日以内、定期報告時の判断基準
・患者情報、ロット情報、投与情報の記録方法
・原因究明のために確認する項目
・同一ロット、同一工程の症例確認方法
・提供継続または一時停止の判断フロー
特に、複数の医師が再生医療等を実施している医療機関では、「誰が疾病等報告の要否を判断するのか」を明確にしておく必要があります。
また、夜間や休日に患者から連絡があった場合の対応も想定しておくべきです。
疾病等報告は、発生後のスピードが重要です。
11. 定期報告・不適合報告との違いも整理しておく
疾病等報告は、定期報告や不適合報告と混同されやすい手続きです。
定期報告は、1年ごとに提供状況、安全性、科学的妥当性などをまとめて報告する手続きです。
一方、疾病等報告は、再生医療等の提供に起因するものと疑われる疾病、障害、死亡、感染症が発生した場合に、内容に応じて速やかに行う報告です。
また、不適合報告は、再生医療等が施行規則または再生医療等提供計画に適合していない状態に関する報告です。厚生労働省は、不適合について、施行規則または再生医療等提供計画、研究計画書等の不遵守をいい、逸脱などを含むと説明しています。
たとえば、次のように整理できます。
・患者に重篤な体調不良が発生した
→疾病等報告の要否を確認する
・提供計画に記載されていない投与方法で実施した
→不適合報告の要否を確認する
・1年間の実施件数や安全性・有効性をまとめる
→定期報告として対応する
ただし、実際には、疾病等報告と不適合報告の両方を検討すべきケースもあります。
たとえば、提供計画と異なる投与量で治療を行い、その後に患者に重篤な症状が発生した場合には、疾病等報告と不適合報告の両面から確認が必要になります。
まとめ
再生医療等の疾病等報告で注意すべきポイントは、次のとおりです。
・疾病等報告は、定期報告とは別の手続きである
・因果関係が確定したものだけでなく、再生医療等の提供に起因するものと疑われる疾病等が対象になる
・死亡または死亡につながるおそれのある症例は7日以内の報告が必要
・入院を要する症例、障害、重篤な症例などは15日以内の報告が必要
・その他の疾病等は、定期報告時に委員会へ報告する
・特定細胞加工物等を用いた場合は、CPCへの速やかな通知も必要
・疾病等が発生した場合は、患者対応、記録、原因究明、報告要否の判断を速やかに行う
・院内で疾病等報告フローを整備しておくことが重要
・定期報告、不適合報告、変更届とは別に整理して管理する必要がある
疾病等報告は、医療機関にとって負担の大きい手続きに見えるかもしれません。
しかし、患者の安全を守り、再生医療等を適切に継続するためには、疾病等が発生した際に速やかに状況を把握し、必要な報告と原因究明を行うことが不可欠です。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成だけでなく、疾病等報告、定期報告、変更届、不適合報告、委員会対応、CPCとの調整まで、再生医療等の継続的な運用をサポートしています。
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