
2026年9月2日、厚生労働省は「再生医療等情報提供・通報窓口」を開設しました。
この窓口は、再生医療等の安全性と適正な実施を確保するため、再生医療等に関する法令違反や患者保護上の懸念が疑われる事例について、情報提供・通報を受け付けるものです。提供された情報は、再生医療等の実施状況の把握や、必要な監督・指導等の参考として活用されるとされています。
2026年は、3月の医療機関向け注意喚起、7月の改善命令・自己点検通知に続き、9月には情報提供・通報窓口が新設されました。こうした一連の動きを見ると、再生医療等では「提供計画を提出しているか」という形式的な確認だけでなく、実際の医療現場が提供計画や法令に沿って運用されているかが、これまで以上に重要になっています。
本記事では、厚生労働省が公表した一次情報をもとに、新設された通報窓口の内容と、再生医療等を提供する医療機関が今確認しておきたいポイントを解説します。
1.2026年9月2日に「再生医療等情報提供・通報窓口」が開設
厚生労働省は、再生医療等の安全性および適正な実施を確保するため、「再生医療等情報提供・通報窓口」を開設しました。
厚生労働省の案内では、再生医療等に関する法令違反や患者保護上の懸念が疑われる事例を発見した場合に、情報提供を求めています。
通報された情報は、必要に応じて事実確認や調査に活用されるほか、再生医療等の適正な実施状況の把握、必要な監督・指導等の参考として利用されます。
また、匿名での通報も可能とされています。
医療機関にとって重要なのは、「重大事故が起こった場合だけが対象」という制度ではないという点です。厚生労働省は、法令違反が疑われる運用、安全管理上の問題、患者保護上確認が必要と考えられる情報など、幅広い事例について情報提供を求めています。
2.厚生労働省が例示している「法令違反が疑われる事例」
通報窓口の案内では、法令違反が疑われる事例として、具体的な例が挙げられています。
その一つが、「再生医療等提供計画が未提出と思われる」ケースです。
再生医療等安全性確保法の対象となる治療を行う場合には、必要な委員会審査を経た上で、再生医療等提供計画を提出してから治療を開始する必要があります。対象となる治療であるにもかかわらず、提供計画を提出せずに行っている場合は問題となります。
また、「認定再生医療等委員会の審査を受けていない疑いがある」事例も挙げられています。
さらに注目したいのが、「再生医療等提供計画の記載と異なる方法で再生医療等を実施している」ケースです。
これは、提供計画自体は提出されていても、実際の治療が計画どおりではない場合です。
例えば、提供計画と異なる対象疾患、投与方法、投与回数、投与量、細胞採取方法などで実施していれば、「届出済みだから問題ない」とはいえません。
医療機関としては、現在提出している提供計画と実際の運用が一致しているかを改めて確認することが重要です。
3.安全性上の懸念も通報対象
厚生労働省は、安全性上の懸念がある事例についても情報提供を求めています。
具体的には、
・重篤な健康被害が発生したとの情報がある
・感染症対策や品質管理に問題が疑われる
・細胞の採取・加工・投与に関する安全管理上の問題がある
といったケースです。
ここから分かるのは、通報窓口が単なる「無届治療の情報収集窓口」ではないということです。
患者への投与後管理、CPCの品質管理、細胞・組織の採取、輸送、保管、投与など、再生医療等の一連の安全管理も対象となっています。
2026年6月には「特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版)」が公表され、採取から製造、輸送、医療機関での保管・投与まで、一連の工程で安全性を確保する考え方がより明確になりました。
通報窓口の開設も含め、再生医療等では「CPCが管理しているから医療機関は関係ない」という運用ではなく、医療機関自身が安全管理の状況を把握することが求められています。
4.「特定細胞加工物等の取扱いに関する懸念」も対象
厚生労働省は、その他の情報提供を求める事例として、「特定細胞加工物等の取扱いに関する懸念」を挙げています。
例えば、CPCから医療機関へ搬送された細胞加工物について、適切な温度管理が行われていない、患者と製品の照合方法が不十分、投与前の品質確認を医療機関側で行っていない、といった状態は、患者安全に直接関係します。
再生医療等安全性確保法施行規則では、医師または歯科医師が、投与する特定細胞加工物等について、概要書に従って製造されたものかを確認するなどして、投与可否を判断することが求められています。
そのため、CPCが出荷したものを医療機関が機械的に投与する運用は避けなければなりません。
現在の院内フローについて、製品の受領、ロット確認、品質試験結果、輸送・保管状態、投与前の医師確認が記録として残っているかを点検しておくことをおすすめします。
5.「患者保護の観点から確認が必要と思われる情報」という広い項目もある
通報窓口で情報提供を求める対象には、「患者保護の観点から確認が必要と思われる情報」という項目もあります。
これは非常に広い表現です。
再生医療等の法令では、患者への適切な説明と同意、安全性の確保、科学的妥当性、記録管理、疾病等への対応など、患者保護に関するさまざまな義務が定められています。
そのため、例えば、患者が十分な説明を受けていない、治療内容やリスクが説明同意文書と異なる、健康被害の訴えが適切に院内共有されていない、といった問題も、患者保護上重要な事項になります。
特に自由診療の再生医療等では、患者が高額な治療費を負担するケースも少なくありません。
治療の利益だけを強調せず、期待される利益と不利益、他の治療方法、同意撤回、費用などについて適切に説明することが重要です。
6.匿名通報も可能
厚生労働省の案内では、今回の情報提供・通報窓口は匿名でも利用できるとされています。
また、「可能な範囲で具体的な情報」を記載するよう求められています。
医療機関の視点で考えると、患者本人だけでなく、治療に関係するさまざまな立場の人から情報が寄せられる可能性を想定しておく必要があります。
重要なのは、「通報されないようにする」という発想ではありません。
誰が見ても、提供計画と実際の運用が一致しており、患者への説明、安全管理、記録管理、報告が適切に行われている状態を作ることが本質です。
仮に行政から事実確認を求められた場合にも、提供計画、カルテ、説明同意書、CPC資料、症例記録などから適切な運用を説明できるようにしておく必要があります。
7.通報されたから直ちに違反と認定されるわけではない
一方で、通報があったという事実だけで、医療機関の法令違反が確定するわけではありません。
厚生労働省は、提供された情報を「必要に応じて事実確認・調査等に活用する」としています。
つまり、通報は行政が事実関係を確認するための情報の一つです。
匿名情報や第三者情報には誤解が含まれる場合も考えられます。そのため、医療機関側にとって重要なのは、実際の運用を客観的に説明できる資料を残しておくことです。
例えば、患者の適格性について指摘された場合には、選択基準・除外基準を確認した診療記録が必要です。
投与方法について指摘された場合には、提供計画と投与記録を照合できる必要があります。
品質管理について指摘された場合には、CPCからの品質情報、ロット情報、受領記録、投与前確認などを示せることが重要になります。
8.この窓口は「医療広告の通報窓口」ではない
今回の窓口について、対象外となる情報も厚生労働省が明確に示しています。
特に注意したいのが、医療機関の広告、Webサイト、SNS等の表示に関する情報です。
これらは「再生医療等情報提供・通報窓口」の受付対象外とされており、医療広告違反については「医療機関ネットパトロール」への情報提供が案内されています。
つまり、
「再生医療等の提供計画と異なる治療を実施している疑い」
と、
「再生医療等を広告するホームページの表示に問題がある」
では、情報提供先が異なります。
再生医療等に関する問題だからといって、すべて同じ窓口に通報する仕組みではありません。
医療機関側でも、再生医療等安全性確保法上の運用管理と医療広告規制を分けて理解しておく必要があります。
9.公益通報や患者との個別紛争とも別の制度
厚生労働省は、公益通報についても今回の窓口の対象外としています。
公益通報に該当する場合には、別途案内されている公益通報制度を利用することになります。
また、医療費の返還などの個別の民事紛争や、診療内容に関する医学的評価依頼も対象外です。
契約トラブルや高額請求などの消費者問題については、消費者ホットライン「188」が案内されています。
この点からも、今回新設された窓口の目的が「再生医療等の安全性確保と法令遵守に関する情報収集」にあることが分かります。
10.医療機関が今確認しておきたいこと
今回の通報窓口開設を受けて、すべての医療機関が新しい届出を行う必要が生じたわけではありません。
しかし、2026年7月31日の自己点検通知に続き、9月には通報窓口が設けられたことを考えると、現在の運用を改めて確認するよい機会です。
少なくとも、次の事項は確認しておくことをおすすめします。
提供計画
・現在の治療内容が提供計画と一致している
・変更履歴が整理されている
・対象疾患、投与量、投与回数、投与方法が実態と一致している
患者対応
・選択基準、除外基準の確認が記録されている
・最新の説明同意文書を使用している
・疾病等が疑われる事象を適切に院内共有している
CPC・細胞加工物
・現在使用しているCPCが提供計画と一致している
・製造・品質管理の変更を把握している
・投与前に医療機関側で必要な確認をしている
・採取から投与まで追跡できる
報告
・定期報告を期限内に行っている
・疾病等報告の要否を適切に判断している
・不適合の発生状況を把握している
記録
・診療録と提供計画の内容が整合している
・投与日、ロット、細胞数等を追跡できる
・自己点検や是正対応の記録を残している
11.外部事業者任せになっていないかも重要な点検項目
2026年7月31日の改善命令では、第三者が患者選定や投与内容などに大きく関与し、医療機関が十分に主体的な判断を行っていなかったことが問題とされました。
今回の通報窓口でも、「提供計画と異なる方法で実施している」「細胞の採取・加工・投与に安全管理上の問題がある」といった事例が情報提供対象として示されています。
CPC、紹介会社、コンサルティング会社、海外の提携先などが関与すること自体が問題なのではありません。
重要なのは、対象患者の選定、投与量、投与方法、再投与の判断、投与可否など、医学的判断を医療機関自身が行っていることです。
外部事業者から指示された内容をそのまま実施する運用になっていないかも、自己点検の際に確認しておきたい項目です。
まとめ
2026年9月2日に厚生労働省が開設した「再生医療等情報提供・通報窓口」では、再生医療等提供計画の未提出、委員会審査を受けていない疑い、提供計画と異なる方法での実施、安全管理上の問題、特定細胞加工物等の取扱いに関する懸念などについて、情報提供を受け付けています。
匿名での通報も可能であり、提供された情報は、必要に応じた事実確認・調査や、行政による監督・指導等の参考として利用されます。
一方、医療広告、公益通報、医療費返還等の民事紛争、診療内容の医学的評価などは、この窓口の対象ではありません。
医療機関にとって重要なのは、通報窓口ができたこと自体を過度に恐れることではなく、第三者から見ても適正な運用であることを説明できる状態を作っておくことです。
現在の提供計画と実際の治療内容、患者選定、説明同意、CPCとの連携、投与前確認、疾病等・不適合・定期報告、記録管理までを改めて確認しておくことをおすすめします。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成だけでなく、2026年7月31日の自己点検通知を踏まえた運用点検、提供計画と実際の診療の整合性確認、症例記録・CPC資料・説明同意文書の確認、必要な是正手続きまでサポートしています。
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