
再生医療等を提供する際、脂肪由来幹細胞、線維芽細胞、免疫細胞、PRPなどの細胞加工物を用いる場合があります。
これらのうち、再生医療等に用いられる細胞加工物で、再生医療等製品ではないものは「特定細胞加工物」として扱われます。
特定細胞加工物等を外部CPCに製造委託している医療機関では、「製造や品質管理はCPCが行うもの」と考えがちです。
もちろん、細胞の加工、培養、品質試験、出荷判定などは、CPCが専門的に担う領域です。
しかし、患者に投与する主体は医療機関です。
そのため、医療機関は、投与する特定細胞加工物等について、どのように製造され、どのような品質管理を経て、どのような基準で出荷されたのかを確認できる体制を整えておく必要があります。
本記事では、再生医療等を提供する医療機関が、特定細胞加工物等の品質管理で注意すべき実務上のポイントを解説します。
1. 品質管理はCPCだけの問題ではない
特定細胞加工物等の製造や品質管理は、CPCの業務です。
しかし、医療機関は「CPCに任せているから分からない」という状態ではいけません。
再生医療等を提供する医療機関は、患者に対して治療内容を説明し、同意を取得し、投与の適否を判断し、投与後の経過を確認します。
また、有害事象や疾病等が発生した場合には、投与した細胞加工物の品質、製造工程、ロット情報、出荷判定結果などを確認する必要があります。
医療機関が確認すべき事項としては、次のようなものがあります。
・どのCPCで製造されるのか
・製造施設番号は何か
・どのような細胞を原料とするのか
・採取から製造までの流れはどうなっているか
・培養工程の概要はどうなっているか
・どの品質管理試験を行うのか
・出荷基準は何か
・出荷判定は誰が行うのか
・不適合や逸脱があった場合に、医療機関へどう連絡されるのか
・投与後に疾病等が発生した場合、CPCが原因究明に協力できるのか
品質管理は、CPCの内部手順であると同時に、医療機関が安全に投与を行うための前提です。
2. 製造施設の手続き区分を確認する
特定細胞加工物等を製造する施設は、製造場所によって必要な手続きが異なります。
国内の医療機関内で製造する場合、国内の医療機関外で製造する場合、国外で製造する場合では、届出、許可、認定などの扱いが変わります。
医療機関が確認すべきなのは、単に「CPCがあるか」ではありません。
次のような点を確認する必要があります。
・製造施設が国内医療機関内か、国内医療機関外か、国外か
・必要な届出、許可、認定を受けているか
・施設番号が確認できるか
・自院の再生医療等に用いる細胞加工物が、その施設で製造される前提になっているか
・提供計画、標準書、概要書、契約書で施設名や施設番号が一致しているか
委員会審査や厚生局提出では、製造施設名や施設番号の不一致が指摘されることがあります。
特に、複数のCPCを利用する場合や、CPC側の施設名、法人名、施設番号が変わった場合には注意が必要です。
3. 製造工程の概要を医療機関側でも理解する
特定細胞加工物等の製造工程は専門的です。
しかし、医療機関が全く理解していない状態は望ましくありません。
少なくとも、患者に説明できる程度、委員会から質問されたときに概要を説明できる程度には、製造工程を把握しておく必要があります。
たとえば、脂肪由来幹細胞治療であれば、次のような流れを確認します。
・脂肪組織の採取
・CPCへの搬送
・原料受入れ
・細胞分離
・培養
・継代
・品質管理試験
・凍結保存
・出荷判定
・医療機関への輸送
・医療機関での受領
・投与
免疫細胞療法であれば、採血、細胞分離、培養、活性化、増殖、品質管理、出荷、投与までの流れを確認します。
PRP療法であれば、採血、遠心分離、PRP調製、投与までの流れを確認します。
製造工程を理解しておくことで、説明同意文書、提供計画、標準書、CPC契約、記録管理の整合性を確認しやすくなります。
4. 品質管理試験の項目を確認する
特定細胞加工物等では、安全性を確保するために、品質管理試験が重要になります。
実施される試験は、細胞の種類、製造工程、投与方法、投与時期、凍結の有無などによって異なります。
一般的に確認すべき項目としては、次のようなものがあります。
・無菌試験
・マイコプラズマ試験
・エンドトキシン試験
・細胞数
・生存率
・表面抗原等の細胞特性確認
・外観確認
・異物混入の有無
・純度に関する確認
・感染症関連の確認
・製造工程中の管理項目
ここで重要なのは、試験名を並べることだけではありません。
次の点も確認する必要があります。
・どの段階で試験を行うのか
・中間体で行うのか、最終製品で行うのか
・出荷前に結果が出るのか
・投与後に結果が判明する試験があるのか
・基準値や判定基準は何か
・基準を満たさない場合の対応は何か
・試験結果は医療機関にどのように共有されるのか
試験項目だけでなく、試験のタイミングと結果共有の方法まで確認することが重要です。
5. 出荷基準と投与可否判断を明確にする
CPCが品質管理試験を行っていても、医療機関側で「何を確認すれば投与してよいのか」が不明確なままでは不十分です。
投与前には、少なくとも次のような情報を確認できるようにしておく必要があります。
・出荷判定書
・ロット番号
・患者識別情報
・出荷日
・受領日
・細胞数
・生存率
・投与液量
・品質管理試験結果
・出荷基準への適合状況
・輸送条件
・温度逸脱の有無
・使用期限または投与期限
出荷基準に適合していない場合や、試験結果に疑義がある場合、温度逸脱がある場合には、投与可否を慎重に判断する必要があります。
そのため、あらかじめ次の点を決めておくことが望ましいです。
・投与前に誰が出荷判定書を確認するか
・確認したことをどこに記録するか
・異常がある場合、誰に連絡するか
・CPCの品質部門に確認する方法
・投与を延期または中止する判断基準
・患者への説明方法
・疾病等報告や不適合報告の要否確認フロー
出荷判定はCPCが行うものですが、投与するかどうかの最終的な臨床判断は医療機関が行います。
6. 投与前の受領確認を記録する
CPCから特定細胞加工物等が届いた場合、医療機関では受領時の確認を行う必要があります。
受領確認が不十分だと、後から温度逸脱、輸送ミス、識別ミス、投与期限切れなどが発覚した場合に、どの時点で問題が生じたのかが分からなくなります。
受領時に確認すべき項目は、次のとおりです。
・患者名または症例番号
・ロット番号
・製品名
・製造施設名
・受領日時
・輸送容器の状態
・温度記録
・破損、漏れ、汚染の有無
・添付書類の有無
・出荷判定書の有無
・投与期限
・保管条件
・受領確認者
これらを受領記録として残しておくことで、投与後に有害事象が発生した場合にも、輸送から投与までの流れを追跡できます。
特に、海外CPCや遠方のCPCを利用する場合には、輸送条件と受領記録が重要になります。
7. 温度管理と保管条件を確認する
特定細胞加工物等は、温度管理が品質に影響する場合があります。
凍結品、冷蔵品、室温管理品など、製品ごとに適切な保管条件が異なります。
医療機関では、受領後から投与までの間に、適切な保管ができるかを確認する必要があります。
確認すべき項目は、次のとおりです。
・受領後の保管温度
・保管場所
・投与までの許容時間
・解凍が必要な場合の手順
・解凍後の投与期限
・温度記録の有無
・停電時や機器故障時の対応
・投与予定時刻の変更時の対応
・投与中止時の取扱い
たとえば、投与予定時刻が遅れた場合、解凍後の細胞加工物をそのまま投与してよいのか、投与期限を過ぎた場合はどうするのかを事前に決めておく必要があります。
温度管理や保管条件は、CPCだけでなく、医療機関側の責任範囲にも関係します。
8. 品質不良・逸脱・不適合時の連絡体制を決めておく
製造工程や輸送中に問題が発生することがあります。
たとえば、次のようなケースです。
・培養が予定どおり進まなかった
・細胞数が基準に達しなかった
・生存率が基準を下回った
・無菌試験に疑義があった
・マイコプラズマ試験で問題があった
・エンドトキシン試験で基準を超えた
・輸送中に温度逸脱があった
・ロット情報に不一致があった
・患者識別情報に誤りがあった
・出荷後に品質上の問題が判明した
このような場合、CPCから医療機関に速やかに連絡される体制が必要です。
あらかじめ確認すべき点は、次のとおりです。
・誰が医療機関へ連絡するのか
・連絡手段は何か
・緊急時の連絡先はどこか
・診療時間外はどうするか
・投与予定患者への説明はどうするか
・投与延期、再採取、再製造の費用負担はどうするか
・不適合報告や疾病等報告の要否を誰が判断するか
品質不良や逸脱は、患者の安全性だけでなく、治療スケジュールや費用説明にも影響します。
CPCとの契約書や運用手順で、連絡体制と責任分担を明確にしておくことが重要です。
9. CPC側の変更は、提供計画にも影響する
CPC側で製造方法や品質管理方法が変更された場合、医療機関側でも再生医療等提供計画への影響を確認する必要があります。
たとえば、次のような変更です。
・培地の変更
・試薬の変更
・培養工程の変更
・継代数の変更
・凍結保存方法の変更
・輸送方法の変更
・無菌試験の方法変更
・マイコプラズマ試験の方法変更
・エンドトキシン試験の方法変更
・出荷基準の変更
・製造施設の変更
・外部委託工程の変更
これらはCPC内部の変更に見えるかもしれません。
しかし、提供計画や標準書、概要書に記載されている内容と異なる場合、変更届や委員会確認が必要になる可能性があります。
医療機関側では、CPCとの契約や覚書で、製造工程や品質管理に変更がある場合の事前通知を定めておくべきです。
「CPCで勝手に変わっていた」という状態は避けなければなりません。
10. 患者説明にも品質管理の概要を反映する
患者に対して、品質管理試験の専門的な詳細をすべて説明する必要はありません。
しかし、どのように細胞加工物が作られ、どのような確認を経て投与されるのかについては、分かりやすく説明する必要があります。
説明同意文書には、次のような内容を入れることが考えられます。
・採取した細胞や組織をCPCへ送ること
・CPCで加工、培養、保管、品質確認を行うこと
・投与前に一定の品質確認を行うこと
・品質基準を満たさない場合、投与できないことがあること
・その場合、再採取、再製造、投与延期、中止となる可能性があること
・細胞加工物の品質確認結果により、投与日が変更される場合があること
・品質不良や製造不成立の場合の費用取扱い
患者にとって重要なのは、「必ず予定どおり投与できるとは限らない」という点です。
細胞加工物は、生きた細胞を扱うため、採取量、細胞の状態、培養結果、品質試験結果によっては、予定どおり投与できない場合があります。
この点を事前に説明しておくことで、患者トラブルを防ぎやすくなります。
11. 品質管理に関する実務チェックリスト
特定細胞加工物等の品質管理について、医療機関では次の項目を確認するとよいです。
製造施設の確認
・製造施設名を確認しているか
・施設番号を確認しているか
・届出、許可、認定の区分を確認しているか
・提供計画、標準書、概要書、契約書で施設情報が一致しているか
製造工程の確認
・原料細胞または組織を確認しているか
・採取から投与までの流れを把握しているか
・培養、凍結、輸送の有無を確認しているか
・製造工程の概要を患者に説明できるか
品質試験の確認
・無菌試験を確認しているか
・マイコプラズマ試験を確認しているか
・エンドトキシン試験を確認しているか
・細胞数、生存率、細胞特性確認を確認しているか
・試験の実施時期と結果判明時期を確認しているか
出荷・投与前確認
・出荷判定書を確認しているか
・ロット番号を記録しているか
・投与細胞数、投与量、投与期限を確認しているか
・輸送温度や受領時状態を確認しているか
・投与可否判断の責任者を決めているか
異常時対応
・品質不良時の連絡体制があるか
・温度逸脱時の対応を決めているか
・投与延期、中止時の患者説明方法を決めているか
・疾病等報告、不適合報告の要否確認フローがあるか
・CPCとの原因究明体制を確認しているか
変更管理
・CPC側の製造工程変更を事前に把握できるか
・品質管理方法変更時の通知体制があるか
・提供計画や説明同意文書への影響を確認するフローがあるか
まとめ
特定細胞加工物等の品質管理で注意すべきポイントは、次のとおりです。
・品質管理はCPCだけの問題ではなく、医療機関も内容を把握する必要がある
・製造施設の届出、許可、認定の区分や施設番号を確認する
・採取から投与までの製造工程を医療機関側でも理解する
・無菌試験、マイコプラズマ試験、エンドトキシン試験、細胞数、生存率などの品質管理項目を確認する
・出荷基準、出荷判定書、ロット番号、投与期限、輸送条件を投与前に確認する
・受領時の温度管理や容器状態を記録する
・品質不良、逸脱、不適合時の連絡体制と責任分担を決めておく
・CPC側の製造工程や品質管理方法の変更は、提供計画にも影響する可能性がある
・患者説明にも、品質基準を満たさない場合は投与延期や中止となる可能性があることを反映する
特定細胞加工物等の品質管理は、患者の安全性を守るための重要な基盤です。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成だけでなく、CPC資料の確認、特定細胞加工物概要書・標準書との整合性確認、品質管理試験項目の整理、説明同意文書への反映、委員会指摘への対応、変更届、疾病等報告、不適合対応まで、再生医療等の導入と運用をサポートしています。
特定細胞加工物等の品質管理や、CPC資料・提供計画との整合性確認でお困りの医療機関様は、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせ下さい。
事前にご連絡をいただけましたら、営業時間外や休業日にも対応いたします。 また、チャットツールによる打ち合わせにも対応しております