
再生医療等では、PRP療法、脂肪由来幹細胞治療、線維芽細胞治療、免疫細胞療法など、患者本人または細胞提供者から採取した血液、脂肪組織、皮膚組織、その他の細胞・組織を用いる治療があります。
このとき、最初の工程になるのが「細胞の採取」です。
再生医療等提供計画では、投与方法やCPCでの製造方法に注目が集まりがちですが、実務上は、細胞をどこで、誰が、どのように採取するのかが非常に重要です。
細胞採取の方法が曖昧なままでは、委員会審査で指摘を受ける可能性があります。
また、採取時のリスク、採取量、麻酔方法、採取後の管理、CPCへの搬送、細胞提供者への説明が不十分であれば、患者トラブルや品質管理上の問題につながることもあります。
本記事では、再生医療等における細胞採取について、医療機関が確認すべき実務上のポイントを解説します。
1. 細胞採取は、再生医療等の安全性と品質の出発点
再生医療等に用いる細胞加工物の品質は、CPCでの加工工程だけで決まるものではありません。
採取された細胞や組織の状態、採取方法、採取量、採取後の保管、搬送条件、識別管理が、その後の製造工程や投与の安全性に影響します。
たとえば、脂肪由来幹細胞治療では、脂肪組織をどの部位から、どの方法で、どの量採取するのかが重要になります。
PRP療法では、採血量、採血方法、使用するキット、遠心分離までの時間が重要です。
免疫細胞療法では、採血量、採血管、採血後の保管、CPCへの搬送条件が問題になります。
細胞採取は、単なる前処置ではありません。
再生医療等全体の安全性、品質、トレーサビリティを支える最初の工程です。
2. 提供計画には「採取の方法」を具体的に記載する
再生医療等提供計画では、「細胞の採取の方法」を記載する必要があります。
この欄に、投与方法や治療全体の説明を書いてしまい、採取方法が十分に記載されていないケースがあります。
しかし、細胞の採取の方法では、実際にどのように細胞や組織を採取するのかを具体的に整理すべきです。
確認すべき項目は、次のとおりです。
・採取する細胞または組織の種類
・採取部位
・採取量
・採取方法
・採取に用いる器具
・麻酔の有無、麻酔方法
・採取場所
・採取を行う医師または歯科医師
・採取後の保管方法
・採取後のCPCへの搬送方法
・採取時の有害事象対応
たとえば、脂肪由来幹細胞治療であれば、腹部、大腿部、臀部など、どこから脂肪を採取するのかを整理します。
採取部位を「腹部または大腿部」とする場合には、他の書類でも同じ表現に統一する必要があります。
提供計画では腹部のみ、説明同意文書では腹部または太もも、添付書類では腹部または臀部といった不一致があると、委員会審査で指摘を受けやすくなります。
3. 採取場所を曖昧にしない
細胞採取は、どこで行うかも重要です。
医療機関内の処置室、手術室、診察室、採血室など、採取内容に応じて適切な場所を設定する必要があります。
特に、脂肪採取や皮膚組織採取のように侵襲を伴う処置では、清潔操作、麻酔、止血、感染予防、急変時対応を考慮する必要があります。
採取場所について確認すべき点は、次のとおりです。
・採取を行う部屋
・清潔操作が可能な環境か
・必要な器具、薬剤、処置物品があるか
・採取後の観察が可能か
・急変時の初期対応が可能か
・採取後の検体を一時保管できるか
・CPCへの引渡しまでの動線が整理されているか
採取場所が曖昧だと、実際の運用で「どこで採取するのか」「必要な設備があるのか」「採取後に誰がCPCへ渡すのか」が不明確になります。
提供計画、説明同意文書、院内手順書で採取場所の考え方を整えておくことが重要です。
4. 採取を行う医師・歯科医師を整理する
細胞採取を誰が行うのかも、実務上重要です。
特に、再生医療等を行う医師と、細胞採取のみを行う医師が異なる場合には、体制を整理する必要があります。
確認すべき点は、次のとおりです。
・採取を行う医師または歯科医師は誰か
・投与を行う医師と同じか、別か
・採取のみを行う医師を提供計画にどう記載するか
・採取医師の略歴が必要か
・採取に必要な経験や技能があるか
・採取時の有害事象に対応できるか
・説明同意文書に採取医師名を記載する必要があるか
委員会によっては、細胞採取を行う医師についても略歴書や経験の確認を求める場合があります。
特に、海外で細胞採取を行う場合や、脂肪採取など侵襲を伴う場合には、採取医師の体制確認が重要になります。
細胞採取は、再生医療等の一部として患者の身体に侵襲を加える医療行為です。
そのため、採取医師の役割と責任を明確にしておく必要があります。
5. 細胞提供者への説明同意を整理する
再生医療等では、再生医療等を受ける者に対する説明同意だけでなく、細胞提供者への説明同意も重要です。
自家細胞治療では、細胞提供者と再生医療等を受ける者が同じであることが多いです。
そのため、「患者本人に説明しているから、細胞提供者への説明は不要」と考えられることがあります。
しかし、細胞を採取することと、加工後に投与することは、患者にとって別の医療行為です。
厚生労働省の記載要領でも、細胞提供者と再生医療等を受ける者が一致する場合でも、細胞提供者および代諾者に対する説明同意文書を作成することが望ましいとされています。
細胞提供者への説明では、次の内容を整理します。
・採取する細胞や組織の種類
・採取方法
・採取量
・採取部位
・採取に伴う痛みやリスク
・麻酔方法
・採取後の処置
・採取した細胞の使用目的
・細胞の加工、保管、廃棄
・CPCや外部機関への提供
・個人情報の取扱い
・同意撤回時の取扱い
細胞提供者が患者本人であっても、採取に関する説明を明確にすることで、後日のトラブルを防ぎやすくなります。
6. 採取に伴うリスクを具体的に説明する
細胞採取には、治療内容に応じたリスクがあります。
説明同意文書では、これらを具体的に記載する必要があります。
採血の場合
・穿刺時の疼痛
・内出血
・腫脹
・しびれ
・迷走神経反射
・気分不良
・感染
・採血困難
脂肪採取の場合
・疼痛
・出血
・内出血
・腫脹
・感染
・瘢痕
・皮膚の凹凸
・麻酔に伴うリスク
・採取部位の違和感
・再採取が必要になる可能性
皮膚組織採取の場合
・疼痛
・出血
・感染
・瘢痕
・色素沈着
・創部治癒の遅延
・採取部位の違和感
リスク説明では、「副作用が生じる可能性があります」とだけ書くのでは不十分です。
患者が具体的にイメージできるように、どの処置により、どのような症状が起こり得るのかを整理する必要があります。
また、採取した細胞が培養不成立や品質基準未達となり、予定どおり投与できない可能性も説明しておくことが望ましいです。
7. 採取量と採取できなかった場合の対応を決めておく
細胞採取では、必要量を採取できない場合があります。
たとえば、採血が困難な患者、脂肪量が少ない患者、採取時の疼痛や体調不良により処置を中止する患者などです。
また、採取できたとしても、細胞数が十分に得られない、培養がうまく進まない、品質基準を満たさない場合もあります。
そのため、事前に次の点を整理する必要があります。
・標準採取量
・最小採取量
・最大採取量
・採取できなかった場合の対応
・再採取の可否
・再採取時の費用
・採取後に細胞加工できなかった場合の対応
・投与できなかった場合の患者説明
・CPCとの連絡方法
患者に対しては、「採取すれば必ず投与できる」と誤解されないように説明することが重要です。
採取した細胞や組織の状態によっては、予定どおりの細胞加工物が製造できない場合があります。
この点を説明同意文書や費用表にも反映させる必要があります。
8. 採取後の保管・搬送・識別管理を確認する
細胞採取後は、CPCへの搬送や院内での一時保管が必要になる場合があります。
この工程で識別ミス、温度逸脱、搬送遅延、容器破損、記録漏れが発生すると、細胞加工物の品質や投与可否に影響します。
確認すべき項目は、次のとおりです。
・採取後の容器
・患者識別番号
・ラベル表示
・採取日時
・採取者
・採取量
・保管条件
・搬送条件
・CPCへの引渡し方法
・搬送業者
・温度管理
・受領確認
・搬送記録の保存
特に、複数患者の採取を同日に行う場合や、複数CPCを利用する場合には、識別管理が重要です。
細胞加工物は患者ごとに対応するため、採取段階からトレーサビリティを確保する必要があります。
9. 採取に関する記録を残す
細胞採取に関する記録は、定期報告、疾病等報告、不適合対応、CPCとの原因究明、患者説明の基礎資料になります。
記録すべき内容は、次のとおりです。
・採取日
・採取時刻
・採取場所
・採取医師
・採取補助者
・採取部位
・採取方法
・採取量
・使用器具
・麻酔方法
・採取時の患者状態
・採取時の有害事象の有無
・採取後の処置
・検体ラベル
・CPCへの引渡し時刻
・搬送条件
・CPC受領確認
採取時に有害事象がなかった場合でも、「有害事象なし」と記録しておくことが重要です。
また、採取予定だったが採取できなかった場合、採取を途中で中止した場合、採取量が予定より少なかった場合も、理由を記録しておく必要があります。
10. 採取方法を変更する場合は変更手続きを確認する
治療開始後に、細胞採取方法を変更することがあります。
たとえば、次のような場合です。
・採取部位を変更する
・採取量を変更する
・採取器具を変更する
・麻酔方法を変更する
・採取場所を変更する
・採取医師を追加する
・海外医療機関での採取を追加する
・CPCへの搬送方法を変更する
これらの変更は、再生医療等提供計画や説明同意文書、CPCとの手順、品質管理に影響する可能性があります。
特に、安全性に影響を与える変更の場合には、認定再生医療等委員会の意見を聴いたうえで、あらかじめ変更届が必要になる可能性があります。
軽微な表記修正であっても、届出が必要になる場合があります。
そのため、採取方法を変更する場合には、実施前に、提供計画、説明同意文書、CPC資料、委員会手続きへの影響を確認することが重要です。
11. 採取に関する実務チェックリスト
再生医療等の細胞採取では、次の項目を確認するとよいです。
採取方法
・採取する細胞または組織を明確にしているか
・採取部位を明確にしているか
・採取量を明確にしているか
・採取方法を具体的に記載しているか
・使用器具や麻酔方法を整理しているか
採取場所・採取医師
・採取場所を明確にしているか
・採取場所の清潔管理や急変時対応を確認しているか
・採取を行う医師を整理しているか
・採取医師の経験や略歴が必要か確認しているか
・採取医師が変更される場合の手続きフローがあるか
細胞提供者への説明
・細胞提供者への説明同意文書を作成しているか
・採取方法、採取量、採取部位を説明しているか
・採取に伴うリスクを具体的に説明しているか
・採取した細胞の使用、保管、廃棄を説明しているか
・同意撤回時の取扱いを説明しているか
採取後管理
・採取後の容器、ラベル、識別管理を決めているか
・CPCへの搬送条件を確認しているか
・温度管理や搬送記録を残しているか
・CPC受領確認を取得しているか
・採取後に加工できなかった場合の対応を決めているか
記録管理
・採取日、採取時刻、採取場所を記録しているか
・採取医師、採取部位、採取量を記録しているか
・有害事象の有無を記録しているか
・CPCへの引渡し記録を残しているか
・採取できなかった場合の理由を記録しているか
まとめ
再生医療等の細胞採取で注意すべきポイントは、次のとおりです。
・細胞採取は、再生医療等の安全性と品質の出発点である
・提供計画には、採取部位、採取量、採取方法、採取場所、採取後の管理を具体的に記載する
・採取場所は、清潔操作、急変時対応、CPCへの搬送動線を踏まえて整理する
・採取を行う医師・歯科医師の役割と体制を明確にする
・細胞提供者と再生医療等を受ける者が同じ場合でも、細胞提供者への説明同意文書を作成することが望ましい
・採取に伴う疼痛、出血、感染、瘢痕、迷走神経反射などのリスクを具体的に説明する
・採取量、採取できなかった場合、培養不成立の場合の対応を決めておく
・採取後の保管、搬送、識別管理、CPC受領確認を記録する
・採取方法や採取場所を変更する場合は、変更届や委員会確認の要否を確認する
細胞採取は、再生医療等の最初の工程であり、患者安全、品質管理、CPC連携、説明同意、記録管理のすべてに関わる重要な部分です。
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