【再生医療等を始めたい医療機関向け】特定細胞加工物製造施設(CPC)の選び方

近年、脂肪由来幹細胞や線維芽細胞を培養することで増殖させ、注射や点滴により体内に戻す治療法を導入する医療機関が増えています。
これらの治療法は、再生医療等安全性確保法において第2種再生医療等技術に分類され、実施するためには再生医療等提供計画を管轄の厚生局に提出する必要があります。
また、脂肪組織や皮膚組織の培養を外部に委託する場合は、特定細胞加工物製造許可、認定、届出を行った施設に委託する必要があります。
これらの治療法を新しく始めようとする場合に、院内で培養設備を持たない場合はどこの特定細胞加工物製造施設(以下、CPCと表記します)に細胞培養を委託するかは非常に重要なポイントの一つとなります。
そこで、本記事ではCPCの選び方について7つのポイントを解説します。

①培養方法について

まずは、細胞を培養する方法についてです。
細胞培養の方法については用いる血清等の種類が重要となります。
脂肪由来幹細胞や線維芽細胞を培養する際に、細胞を増殖させるために必要な成長因子等の供給源として血清等を用いますが、現在主流な方法としては以下の3種類があります。

(1)FBS(ウシ胎児血清)を用いる方法
(2)自己血清を用いる方法
(3)血清を用いない方法(無血清培地)

これらの3種類の方法は、大まかには以下のように特徴付けられます。

【安全性・品質】
高 (3)→(2)→(1) 低

【培養委託費用】
安価 (1)→(2)→(3) 高価

(1)のFBSを用いる方法は、手技的にも容易で安価な市販品を用いることができることから人を対象としない研究では一般的な方法ですが、元となるウシ胎児にも個体差があり完全には均一ではなくロット差が生じることや、現在の科学では判明していないウイルスやプリオンによる安全性への影響が否定できないとされています。
(2)の自己血清を用いる方法は、そのようなFBSの問題点を解決するための代替手法として確立された方法で、患者本人の血液を元に血清を調製して用いるため、安全性の問題は解決することができますが、個人差がありうまく培養できない場合があることや、少なくない量の採血が必要となることが問題点となります。
(3)の血清を用いない方法は、FBSや自己血清を用いる手法の問題点を解決するために開発された手法で、細胞培養に必要な成長因子やホルモン等を混合した製剤を添加した無血清培地を使用する方法です。一切の生体由来原料を含まず、品質的にも一定であるため安全面、品質面で最も優れた手法であると言えますが、使用する製剤が高価なため培養費用も高価になることが欠点となります。
CPCによって採用している方法が異なるため、価格と安全性・品質のどちらを重視するかを考慮して選択することになります。

重要なポイントとして、再生医療等提供計画を厚生局に提出する前に特定認定再生医療等委員会(以後、委員会と表記します)の審査を受ける必要がありますが、中には(1)のFBSを用いる方法を認めていない(審査通過させない)委員会もあります
(1)のFBSを用いる方法を採用しているCPCでもロットチェックや製造した細胞加工物(最終製品)の残存物の確認等、安全性・品質を確保するための措置は講じていますが、それでも審査通過させない委員会もあるため、そのような委員会で審査を受けたい場合は(2)、(3)の方法を採用しているCPCを選択する必要があります。

②保存・輸送方法について

2つ目は、保存・輸送方法についてです。
製造した細胞加工物(最終製品)の保存・輸送方法については主に冷蔵、凍結の2種類があります。
冷蔵保存の場合、凍結保存とは異なり凍結、解凍の工程がないため細胞加工物の品質(主に細胞生存率)を維持しやすいと言われています。
また、CPCから届いた細胞加工物を即座に治療に使用でき、医療機関における手技が簡便であるというメリットもあります。
デメリットとしては保存期限が短く、製造後24時間〜48時間以内には使用しなければならないため、治療を予定していた日に患者が来なかった場合等、予定通りに治療が行えなかった場合は再度製造、出荷してもらう必要があることが挙げられます。

一方で、凍結保存の場合、細胞を長期間保存することができるため、治療日の変更にも柔軟に対応できるというメリットがあります。
デメリットとしては、凍結、解凍の際に細胞が死滅する恐れがあるため細胞生存率を維持することが難しいと言われています。しかしながら、この点については最近ではあまり重要視されなくなっており、以前は凍結保存は認めなかった委員会でも現在では認めるようになっているところもあります。
そのため、凍結保存のデメリットとして重要なのは、医療機関側でも設備投資が必要となる可能性があることです。
凍結細胞は−80℃前後の超低温で保存する必要があるため、超低温に対応した冷凍庫が必要となり、サイズや機能にもよりますが安いものでも約60万円かかります。それ以外にも、解凍した細胞を溶解するために用いる器具(ブロックインキュベーターやウォーターバス)、細胞を洗浄するために用いる遠心分離機やクリーンベンチも必要となる場合があり、合計で100万円前後の設備投資が必要となる可能性があります。
加えて、医療機関に到着してからの手技が煩雑となる場合があることもデメリットとして挙げられます。
細胞を凍結保存する場合には、解凍する際に細胞が死滅することを防止するために細胞凍結保存液を使用しますが、細胞凍結保存液の多くは人体に有害であり、細胞加工物を投与する前に洗浄して除去する必要があります。そのためには遠心分離と生理食塩水による洗浄を数回繰り返す必要があり、冷蔵保存の場合と比べると煩雑な手技が必要となります。しかしながら、最近では洗浄が不要な凍結保存液も出てきており、そのような凍結保存液を使用している場合は洗浄は不要となります。

このように、冷蔵保存、凍結保存の双方にメリット、デメリットがあり、それらを考慮してどちらの手法を採用しているCPCを選ぶかを検討する必要があります。

③細胞生存率について

3つ目は、脂肪由来幹細胞の場合の細胞生存率です。
脂肪由来幹細胞を静脈点滴により投与することにより起こりうる有害事象として肺塞栓症の発生が挙げられ、細胞生存率が低いと死細胞が肺の毛細血管に詰まり肺塞栓症を引き起こすおそれがあると言われています。そのため、特に静脈点滴の場合はCPCを選択するポイントの一つとして細胞生存率にも着目することが重要となります。
現状、CPCにおける細胞生存率の規格は80%以上か90%以上に設定されているところが多いですが、委員会によっては90%以上の細胞生存率を要求しているところがあります(脂肪由来幹細胞を局所注射するか静脈点滴するかによって異なる場合もあります)。
細胞生存率の規格を高く設定するということはそれだけ品質管理を厳しくするということですので、細胞生存率の規格を高く設定しているCPCでは培養費用が比較的高くなる傾向がありますが、脂肪由来幹細胞の静脈点滴を行う場合は細胞生存率を90%以上に設定しているCPCを選択することが望ましいと思われます。

④培養費用について

4つ目は、培養費用についてです。
全てのCPCでの培養費用を把握しているわけではありませんが、一般的にCPCにおける培養費用は1億細胞の場合で30万円〜80万円の間が一般的であると思われます。
一概に培養費用が高い方が高品質であるとは言い切れませんが、①で説明した通り、培養費用が安いCPCではFBSを用いており、培養費用が高いCPCでは無血清培地を用いている場合が多いため、ある程度価格と安全性・品質は相関している傾向があります
そのため、培養費用の安さと安全性・品質のどちらを重視するかで判断することになります。
なお、CPCによっては別途、凍結保存(バンキング)料金が必要であったり、細胞数によって培養費用が大きく異なることもあります。
また、毎回の培養委託の際にかかる費用以外に初期導入のための費用(研修実施費等)が必要である等、培養費用以外の費用がかかる場合もあります。

⑤委員会との関係性について

5つ目は委員会との関係性です。
前述の通り再生医療等提供計画を厚生局に提出する前に委員会による審査を受けて通過する必要がありますが、CPCを選ぶ際に委員会との関係性についても考慮することが望まれます。
なぜならば、CPCが特定の委員会で審査を受けることを求めてきたり、逆に特定のCPCで製造委託する計画でなければ審査通過が難しい場合があるからです。
CPCからすると、委員会に再生医療等提供計画を提出することによりCPCが保有する機密情報を委員会に開示しなければならないことになります。再生医療等安全性確保法により、委員会及び構成する委員には守秘義務が定められてはいるものの、不特定多数の委員会に機密情報を開示したくないというCPCも存在しています。
そのため、CPCを決定すると自動的に委員会も決定するということも多く、実質的にはCPCの選択と委員会の選択はセットで考える必要があります。

詳しくは以下の別記事で解説しますが、委員会によって審査費用や審査基準、所要期間が異なるため、CPCを選択する際にどこの委員会とどのような関係性があるのか、これまでどこの委員会で審査に通った実績があるのかも考慮することが求められます。

⑥立地について

6つ目は立地ですが、これまでの5つと比べるとそこまで重要ではないと考えられます。
理由としては、医療機関から多少離れていても問題なく細胞培養の受託が行えるからです。
②で説明したように細胞加工物の保存・輸送方法は冷蔵保存と凍結保存の2種類がありますが、保存期限の短い冷蔵保存でも製造後24時間〜48時間以内に設定されており、航空機を用いた輸送であれば日本国内はもちろん国外でも近隣の国であれば期限内に輸送して治療に使用することが十分可能です。
できるだけ近くの方が良いのではないかと考えられる方もおられるかと思いますが、立地(医療機関からの近さ)よりもこれまでに挙げた5つのポイントを重視すべきだと思います。

また、最近では海外(韓国等)に立地するCPCも増えてきていますが、これまでに挙げた5つのポイント等をもとに国内の施設よりも優れていると判断した場合は海外のCPCを選択することも選択肢として十分検討に値すると思われます。

⑦許可、認定、届出の違いについて

冒頭で、「脂肪組織や皮膚組織の培養を外部に委託する場合は、特定細胞加工物製造許可、認定、届出を行った施設に委託する必要がある」と述べましたが、これら3つの手続きは以下のように対象者が異なるだけで手続き完了後は特段違いはありません。

許可:国内の医療機関内や再生医療等製品製造業者等以外の施設で特定細胞加工物を製造する場合
認定:海外の施設で特定細胞加工物を製造する場合
届出:国内の医療機関内や再生医療等製品製造業者等の施設で特定細胞加工物を製造する場合

よくある勘違いとして、「許可や認定を受けているCPCにしか特定細胞加工物の製造を委託することができない」というものがありますが、そのようなことはなく、届出施設(医療機関内のCPC)に製造委託することは再生医療等安全性確保法上は全く問題ありません


CPCの選び方について7つのポイントを解説しましたが、これらの情報は必ずしもCPCのHP等で公開されているとは限らず、直接問い合わせなければ教えてもらえない場合もあります。
弊所では複数のCPCを紹介可能であり、解説させていただいたポイントを踏まえてご要望に合った最適なCPCをご紹介することが可能です。
再生医療等提供計画の作成だけでなく、CPCの選択についてもご相談いただくことが可能ですので、培養細胞を用いた再生医療等の導入をご検討されている場合はお気軽にご相談ください。

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