
再生医療等を導入・継続する医療機関では、治療方法や申請書類の整備に加え、教育・研修の体制を整える必要があります。しかし、「どの研修を受講すればよいのか」「院内研修でもよいのか」「毎年、研修記録を提出しなければならないのか」といった点は、制度上の要件と実務上の対応が混同されやすい部分です。
特に区別しておきたいのは、医療機関として教育・研修の機会を確保すること、実施医師が治療に必要な知識・臨床経験を備えていること、そして、それらを提供計画や審査資料で説明することです。研修を受講したという事実だけで、実施医師としての要件や必要な変更手続きがすべて満たされるわけではありません。
本記事では、主に治療として再生医療等を提供する医療機関を対象に、施行規則、厚生労働省の記載要領、令和8年の注意喚起・自己点検通知をもとに、教育・研修と医師の要件を整理します。
1.教育・研修の基本は、施行規則第25条に定められている
再生医療等安全性確保法施行規則第25条第1項は、再生医療等を提供する医療機関の管理者または実施責任者に対し、適正な実施のため、定期的に教育または研修の機会を確保することを義務付けています。同条第2項では、実施医師・歯科医師その他の従事者についても、定期的に適切な教育・研修を受け、情報収集に努めることが定められています。第三種再生医療等も、この規定の対象です。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法施行規則」第25条)
この規定を踏まえると、医療機関側が「必要な人が各自で勉強しているはず」と考えるだけでは、研修機会を確保する体制として十分か確認できません。誰を対象に、どのような教育・研修の機会を設けるのかを、医療機関として整理しておくことが重要です。
院内研修を設計する際は、医師向けの医学的な内容だけでなく、看護師や事務担当者など、それぞれの担当業務に応じた内容を組み込むと実務に結び付けやすくなります。
2.「年1回」「特定の講習」といった一律の要件ではない
施行規則第25条自体には、「年1回」「年間何時間」といった具体的な回数・時間や、全医療機関が受講すべき特定の講習名は定められていません。ただし、具体的な回数が全国一律に定められていないことと、医療機関が研修の方法や頻度を決めなくてよいことは別です。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法施行規則」第25条)
厚生労働省の治療用提供計画の記載要領では、「教育又は研修の方法」欄に、関係者への教育・研修の内容や頻度等を記載することが示されています。外部研修や学術集会への参加機会を確保する場合も、その内容と方法を記載します。(厚生労働省「再生医療等提供計画〈様式第1の2〉の記載要領等について」PDF6頁)
したがって、実務では自院が提出している提供計画の記載と整合性を取れるようにしなければなりません。例えば、計画で「年2回の院内研修を実施する」と定めている場合、それは法令が全国一律に年2回を求めているという意味ではありませんが、自院の計画に沿った運用として実施状況を確認する必要があります。再生医療等を行う医師・歯科医師には、提出した提供計画に基づいて実施することが求められているためです。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法施行規則」第10条第4項)
研修計画を作成する際には、実行できない回数を形式的に記載するのではなく、治療内容、担当者、勤務体制を踏まえて、継続できる方法を設定することが重要です。
3.院内研修と外部研修は、目的に応じて組み合わせる
厚生労働省の令和7年5月15日付取扱い通知では、施行規則第25条の教育・研修について、外部機関が実施する教育・研修や学術集会への参加でも差し支えないとされています。教育・研修をすべて院内で完結させる必要はありません。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法等の取扱いについて」34頁・省令第25条関係)
実務上は、外部研修で制度や対象疾患に関する知識を学び、院内研修では自院の提供計画や具体的な手順を確認する、という組み合わせが考えられます。
例えば、外部研修で疾病等報告の制度を学んでも、自院で患者から体調不良の連絡があった際、誰に報告し、どの記録を確認するのかまでは決まりません。反対に、院内の連絡手順だけを覚えていても、報告が必要となる事象の考え方を理解していなければ、判断が遅れるおそれがあります。
CPCや機器メーカーによる研修を活用する場合も、何を学べる研修なのかを具体的に確認することをおすすめします。機器の操作説明、製造工程の説明、疾患の診断・適応判断、投与手技、急変時対応は、それぞれ異なる内容です。
「どの団体の研修を受けたか」だけでなく、「担当する業務に必要な内容が含まれていたか」という視点で整理すると、不足している教育内容が見えやすくなります。
4.研修受講歴と、実施医師に必要な知識・臨床経験は別に確認する
施行規則第9条では、再生医療等を行う医師・歯科医師に対し、当該再生医療等を行うために必要な専門的知識と十分な臨床経験を求めています。研究として実施する場合には、これに加えて、研究倫理に配慮して適正に研究を実施するための教育・訓練も必要です。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法施行規則」第9条)
令和8年7月31日の自己点検通知でも、実施責任者については対象疾患・関連分野の科学的知見や医療に関する経験・知識、実施医師については当該再生医療等に必要な専門的知識と臨床経験が、点検事項として改めて示されました。(厚生労働省「再生医療等の適切な提供に係る自己点検について〈依頼〉」PDF3頁)
そのため、受講証があることだけで、医師の要件を満たすと判断することはできません。例えば、PRP作製機器の操作研修を受けた事実と、対象疾患を診断し、患者の適格性を判断し、適切な部位へ投与できる経験があることは、分けて説明する必要があります。
医師の経歴を整理する際は、対象疾患の診療経験、担当する採取・投与手技の経験、合併症への対応経験、関連する研修歴を並べて確認すると、どの能力をどの経験で説明できるかが明確になります。不足がある場合には追加研修等を検討しますが、研修を受ければ必ず要件を満たす、または必ず委員会審査を通過するという意味ではありません。
5.救急対応能力は、搬送先の確保だけでは代替できない
令和8年3月12日の厚生労働省通知は、他の医療機関と連携して救急医療体制を確保している場合でも、再生医療等を提供する医師・歯科医師が、現場で救急医療措置を行う技能を備えていることを前提としています。また、その技能を医師略歴の一部として提供計画に添付し、委員会審査を受けることが示されています。(厚生労働省「再生医療等を提供するにあたり医療機関が留意すべき事項について〈注意喚起〉」PDF3~4頁)
ここで確認すべきなのは、単に「救急搬送先があるか」ではなく、搬送につなぐまでの間に、自院の医師・スタッフがどのように対応できるかです。
救急対応に関する研修歴を整理する場合も、講習名だけでなく、受講時期、学習内容、実技の有無などを確認しておくと、技能を説明する資料として整理しやすくなります。ただし、同通知は、特定の講習修了証を持っていれば一律に十分とするものではありません。(厚生労働省・令和8年3月12日付注意喚起「2.再生医療等の提供体制に関して留意すべきこと」)
院内では、医師の技能確認とは別に、救急要請、必要物品の準備、患者情報の整理、搬送先への情報提供など、スタッフの役割分担も確認することをおすすめします。設備を備えることと、その設備を使って連携して動けることは、別の確認事項です。
6.医師略歴書は、学歴・職歴だけで終わらせない
厚生労働省の治療用提供計画の記載要領では、医師略歴について、学歴、職歴、資格、臨床経験、研究実績がある場合はその実績を記載するとされています。特に、提供する再生医療等に関する臨床経験を含め、A4用紙1~2枚に記載することが示されています。(厚生労働省「再生医療等提供計画〈様式第1の2〉の記載要領等について」PDF7~8頁)
勤務先と在籍期間だけを並べた略歴書では、その医師が対象疾患をどの程度診療してきたのか、予定する処置をどのように経験しているのかが分かりにくい場合があります。
実務上は、勤務歴に加え、今回担当する治療に関係する診療内容や手技、研修歴を具体的に整理すると、専門性を説明しやすくなります。研修歴については、受講日、主催者、研修名、学習した内容を確認し、予定と受講済みを明確に区別します。
例えば、「PRP研修受講」とだけ記載するより、「使用する機器の操作、調製手順、品質確認について研修を受講した」と、実際に学んだ範囲を示す方が、研修内容を正確に伝えられます。反対に、受講していない内容や経験していない手技を、受講・経験済みと読める形で記載してはいけません。
7.研修を終えても、医師追加の変更届は別に必要
新たな医師に研修を行った場合でも、それだけで、その医師が直ちに再生医療等を担当できるわけではありません。
令和8年3月12日の通知では、実施医師の変更・追加がある場合、その医師が再生医療等を行う前に、委員会の意見を聴き、変更後の提供計画を提出する必要があることが明示されています。医師の追加は、変更届による手続きが必要です。(厚生労働省・令和8年3月12日付注意喚起、PDF4頁)
したがって、医師追加では、知識・経験や研修状況の確認と、提供計画の変更手続きを、別々の準備事項として管理します。「研修を受けた」「指導医が同席する」という事情を、変更届の代わりにすることはできません。
院内では、新たな医師の勤務開始日だけでなく、再生医療等を担当できる時点を手続担当者と共有しておくことが重要です。必要な行政手続きの判断に迷う場合は、実施前に所管の地方厚生局へ確認します。
8.研修記録の管理と、委員会への提出要否は区別する
施行規則第25条には、医療機関の教育・研修記録について全国共通の様式を用いることや、その記録を毎年一律に提出することまでは規定されていません。したがって、「教育・研修が必要であること」と「毎年、決まった様式の研修記録を必ず添付すること」は、同じ意味ではありません。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法施行規則」第25条)
一方、実施した教育・研修を説明できるよう、記録を残すことは実務上有用です。例えば、実施日・時間、参加者、講師または主催者、研修内容、使用資料、実技や理解確認の内容をまとめておけば、提供計画に沿って研修を実施しているかを確認しやすくなります。
外部研修については、受講証だけでなく、開催案内やプログラムも合わせて保存すると、研修内容を後から確認できます。院内研修では、参加できなかった担当者への補足説明なども記録しておくと、受講漏れの把握に役立ちます。
委員会へ提出する資料は、法令・記載要領上の事項と、委員会が審査上必要として求める資料を分けて確認します。なお、提供計画の記載要領では、委員会審査時に提出を求められた書類等がある場合には、その添付が必要とされています。(厚生労働省「再生医療等提供計画〈様式第1の2〉の記載要領等について」PDF8~9頁・添付資料「その他」)
また、特定細胞加工物等の製造事業者には、施行規則第109条の「教育訓練」など、製造・品質管理に関する別の規定があります。院内でPRP等を製造する医療機関は、提供機関としての教育・研修と、製造事業者としての教育訓練を混同せずに確認する必要があります。(厚生労働省「特定細胞加工物等製造施設について〈概要〉」製造事業者等の遵守事項)
9.院内研修では、自院の提供計画を実際の業務に結び付ける
院内研修の内容を検討する際は、法令の概要を説明するだけでなく、自院の提供計画を使って、実際の業務場面を確認する方法をおすすめします。以下は全国一律の必須カリキュラムではなく、院内運用に結び付けるための実務上の整理例です。
まず、患者を受け入れる場面です。対象疾患、選択基準・除外基準、必要な検査、医師の適応判断、説明同意文書の使用版を確認します。スタッフによる情報収集と、医師による医学的判断の役割を区別しておくことも重要です。
次に、採取・受領・投与の場面です。患者識別情報と検体・製品の照合、CPCからの出荷情報、品質確認、保管条件、投与前に医師へ報告すべき事項などを、自院の手順に沿って確認します。実際に使用する書式を教材にすると、説明だけでは見えにくい確認漏れを見つけやすくなります。
最後に、治療後の連絡や異常があった場面です。患者から体調不良の連絡があった場合、予定した評価ができなかった場合、提供計画と異なる運用に気付いた場合について、院内報告先と記録方法を確認します。
例えば、「患者から投与後の発熱について電話があった」という場面を設定し、受付、看護師、医師、管理者へどのように情報を共有するかを話し合う方法も考えられます。研修は、知識を確認する場であると同時に、院内手順の不明確な部分を発見する機会にもなります。
10.自己点検で見つかった課題を、次の研修に反映する
令和7年5月15日付取扱い通知では、管理者・実施責任者による適時の情報共有や、疾病等・重大な不適合が発生した場合の再発防止策の周知、再発防止の徹底が示されています。教育・研修を、実際の運用上の課題と切り離して考えないことが重要です。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法等の取扱いについて」33頁・省令第20条第1項関係)
例えば、自己点検で説明同意文書の旧版使用が見つかったのであれば、制度の一般論だけを再説明するのではなく、最新版の保管場所、印刷方法、旧版の使用防止、患者に使用した版の記録方法を確認する研修にします。CPCからの変更通知が現場に共有されていなかった場合には、連絡の受領者と、管理者・担当医師への共有手順を見直します。
研修後も、説明を行ったという事実だけで終わらせず、実際の業務が変わったかを確認すると、改善につながります。
ただし、教育・研修を行うことは、必要な変更届や疾病等報告、不適合への対応を代替するものではありません。問題が見つかった場合には、必要な手続きへの対応と再発防止のための教育を、それぞれ進めます。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法等の取扱いについて」)
まとめ
再生医療等の教育・研修では、研修を受けたという事実だけでなく、その内容が担当業務に合っているか、実施医師の知識・経験を説明できるか、自院の提供計画に沿った運用ができているかを確認することが重要です。
施行規則第25条は定期的な教育・研修の機会確保を求めていますが、全国一律の回数・時間を指定しているわけではありません。具体的な内容と頻度は提供計画に記載し、実際の運用と一致させます。また、医師に必要な専門的知識・臨床経験や、医師追加時の変更手続きは、研修受講とは別に確認する事項です。(厚生労働省「再生医療等安全性確保法施行規則」第9条・第25条、治療用提供計画の記載要領、令和8年3月12日付注意喚起)
まずは、現在の提供計画の「教育又は研修の方法」欄と、医師略歴、受講歴、院内研修の実施状況を並べて確認してみてください。「計画には書いてあるが実施できていないこと」と「実施しているが内容を説明できる記録がないこと」を分けると、必要な対応を整理しやすくなります。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成に加え、医師略歴・研修歴の整理、医師追加の変更届、院内の教育・研修体制と提供計画の整合性確認、委員会指摘への対応、自己点検をサポートしています。
再生医療等の導入や医師追加に際し、研修内容や必要資料の整理にお困りの医療機関様は、お気軽にご相談ください。
出典・一次資料
再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則
平成26年厚生労働省令第110号。主な参照箇所は、第9条「再生医療等を行う医師又は歯科医師の要件」、第10条「再生医療等を行う際の責務」、第25条「教育又は研修」です。
「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行令」、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則」等の取扱いについて
令和7年5月15日・医政研発0515第18号。参照箇所は、33頁の「(59)省令第20条第1項関係」と、34頁の「(63)省令第25条関係」です。
再生医療等提供計画(様式第1の2)の記載要領等について
主な参照箇所は、PDF6頁の「教育又は研修の方法」、PDF7~8頁の医師略歴、PDF8~9頁の添付資料「その他」に関する記載です。
再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき再生医療等を提供するにあたり医療機関が留意すべき事項について(注意喚起)
令和8年3月12日・医政研発0312第2号。主な参照箇所は、PDF3~4頁の「2.再生医療等の提供体制に関して留意すべきこと」です。
再生医療等の適切な提供に係る自己点検について(依頼)
令和8年7月31日・医政研発0731第1号。参照箇所は、PDF3頁の別添「1.再生医療等提供機関管理者における自己点検」のうち、「(2)再生医療等を行う医師又は歯科医師について」です。
特定細胞加工物等製造施設について(概要)
参照箇所は、「3.特定細胞加工物等製造施設及び製造事業者等の遵守事項」です。製造事業者に関する教育訓練等の規定を確認する際の資料です。
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