再生医療等の定期報告「科学的妥当性の評価」は何を書けばよい?|厚生労働省の記載要領から実務を解説

再生医療等を提供している医療機関には、1年ごとに定期報告を行う必要があります。定期報告では、実施症例数や疾病等の発生状況だけでなく、「再生医療等の安全性についての評価」と「再生医療等の科学的妥当性についての評価」を行います。

このうち、医療機関から特にご相談が多いのが「科学的妥当性について、具体的に何を書けばよいのか」という点です。

令和7年5月31日に改正再生医療等安全性確保法が施行され、現在の再生医療等提供計画では、定期報告時に科学的妥当性を評価するための方法をあらかじめ記載する仕組みになっています。さらに、令和7年10月17日に厚生労働省が公表した「再生医療等提供状況定期報告書等の記載要領」では、提供計画に記載した評価方法に基づき、再生医療等の提供によって得られた有効性・安全性等のデータを「客観的に評価可能な形」で記載することが示されています。

つまり、定期報告における科学的妥当性の評価は、「患者さんの症状が改善しました」「治療効果が認められました」といった医師の印象だけで完結するものではありません。

本記事では、厚生労働省の一次資料で実際に求められている内容と、当事務所が定期報告を作成する際に実務上行っているデータ整理方法を区別しながら解説します。


1.厚生労働省が求めているのは「客観的に評価可能な形」での記載

令和7年10月17日の「再生医療等提供状況定期報告書等の記載要領」では、「再生医療等の科学的妥当性についての評価」について、提供計画に記載した「科学的妥当性(有効性の見込みも含む。)の評価方法」に基づき、再生医療等の提供による有効性・安全性等に係るデータを客観的に評価可能な形で記載することが求められています。

したがって、例えば「多くの患者で改善した」「おおむね良好な結果であった」「患者満足度が高かった」といった文章だけでは、その結論が何に基づくものなのかを第三者が確認できません。

何例を評価したのか、どのような評価項目を使用したのか、治療後にどのような結果が得られたのかなど、評価の根拠となるデータが分かる形にすることが重要です。

一方で、厚生労働省が全ての再生医療等について「平均値を計算しなければならない」「改善率を必ず算出しなければならない」といった一律の統計方法まで指定しているわけではありません。実際にどのように評価するかは、提供計画に設定した評価方法や治療内容に応じて検討します。


2.科学的妥当性の評価方法は、治療開始前から考える

現在の制度では、定期報告の時期になってから評価方法を考えるのではなく、再生医療等提供計画を作成する段階で科学的妥当性の評価方法を設定することが重要になっています。

厚生労働省の記載要領では、治療として再生医療等を行う場合、定期報告で科学的妥当性を評価できるよう「フォローアップの具体的な手法」をあらかじめ定めておくことが示されています。

例えば、変形性膝関節症に対する再生医療等であれば、VAS、NRS、KOOS、JOAスコアなどを用いて疼痛や関節機能を評価する方法が考えられます。慢性疼痛であれば疼痛スコアのほか、日常生活への影響や鎮痛薬の使用状況などを評価対象とすることも考えられます。

重要なのは、対象疾患と治療目的に合った評価方法を設定し、実際の診療でもその方法に従ってデータを取得することです。

提供計画には評価方法が書いてあるものの、実際の医療現場では全く別の項目しか記録していないという状態では、定期報告時に計画に沿った科学的妥当性の評価ができません。


3.治療前後の比較を行う場合は、比較できるデータを残す

治療前後の変化によって有効性を評価する方法を採用している場合には、比較可能なデータを取得しておくことが重要です。

例えば、治療後のVASが「3」であったとしても、治療前のVASが分からなければ、その患者で疼痛がどの程度改善したのかを判断することはできません。治療前VASが8であれば5ポイントの改善ですが、治療前VASが4であれば1ポイントの改善です。

そのため、前後比較を評価方法としている場合には、治療前の基準値、治療後の評価値、評価時期などを一貫して記録しておくと、定期報告時に客観的な評価を行いやすくなります。

ただし、全ての再生医療等について治療前後で同じ指標を取得することが法令上の一律の要件というわけではありません。あくまで、提供計画に設定した科学的妥当性の評価方法に基づいてデータを取得・評価することが基本です。


4.当事務所では、必要に応じて平均値と改善症例数を整理している

厚生労働省は、定期報告において治療前後の平均値や改善症例数を必須項目として指定しているわけではありません。

一方、複数の症例について治療前後の数値データが取得されている場合には、平均値や改善症例数を整理することで、治療結果を客観的に説明しやすくなります。

そのため、当事務所で定期報告の科学的妥当性を整理する際には、提供計画に定めた評価方法との整合性を確認した上で、必要に応じて治療前後の平均値、改善した症例数、変化量などを確認しています。

例えば10例についてVASを取得しており、治療前平均7.2から治療後平均3.9へ変化していた場合には、集団全体として疼痛スコアが低下したことを示すことができます。

ただし、平均値だけでは症例ごとの違いが見えない場合があります。10人中5人が大きく改善し、残り5人では変化がない場合でも、平均値上は一定の改善が示されます。

そのため、データが取得できる場合には、集団としての平均値だけでなく、「何例で改善が認められたか」も併せて整理すると、実際の治療結果をより把握しやすくなります。


5.「改善」と分類する場合は、判断基準を明確にする

科学的妥当性の評価において、症例を「改善」「無効」などに分類する場合には、何をもって改善と判断したのかを明確にすることが重要です。

例えば、VASが0.5ポイント改善した患者と、5ポイント改善した患者を同じ「改善」として扱うと、結果の意味が分かりにくくなる場合があります。

評価指標によって臨床的に意味のある変化量について一定の科学的知見がある場合には、その知見を参考にする方法があります。一方、明確な基準が確立していない場合には、提供計画に定めた評価方法との整合性を確保しながら、医療機関として一定の判定方法を設定することも考えられます。

ここで注意したいのは、厚生労働省が全ての治療について共通の「改善基準」を定めているわけではないということです。

症例をカテゴリー分類するのであれば、結果を確認した後に都合よく基準を変更するのではなく、どのようなルールで分類したのかを説明できるようにしておくことが重要です。


6.「著効・改善・軽微・無効」は厚生労働省の公式分類ではない

当事務所では、症例ごとの結果を分かりやすく整理する必要がある場合に、「著効」「改善」「軽微な改善」「無効」などのカテゴリーを設定して評価することがあります。

ただし、これは厚生労働省が定期報告について定めている公式な評価区分ではありません。

このような分類を使用する場合には、それぞれの区分をどのような基準で判定するのかを明確にする必要があります。可能であれば、VAS、NRS、KOOSなどの評価指標の数値変化と対応させることで、評価者の主観だけに依存しない分類にすることができます。

例えば、「著効3例、改善4例、軽微2例、無効1例」と整理する場合、その10例をどの基準によって4つに分けたのかが分からなければ、第三者は結果を適切に評価できません。

カテゴリー分類そのものが目的ではなく、症例データを客観的に評価し、その内容を認定再生医療等委員会が確認できる形にすることが重要です。


7.評価指標の悪化と疾病等の発生は分けて考える

治療後に評価指標が悪化した場合には、その結果も科学的妥当性の評価として正確に扱う必要があります。

ただし、VASやKOOSなどの数値が悪化したという事実だけで、直ちに疾病等報告の対象になるわけではありません。

例えば、治療前VASが5、治療後VASが7となった場合、まずは有効性評価として疼痛が悪化した結果を記録します。その上で、疼痛増悪が再生医療等の提供に起因することが疑われる疾病等に該当するのかを別途確認します。

感染、発熱、新たな神経症状、強い疼痛増悪などの事象が生じている場合には、科学的妥当性の評価とは別に、疾病等報告の要否を検討しなければなりません。

厚生労働省の定期報告記載要領では、疾病等について、再生医療等の提供との因果関係が完全に否定されるもの以外は報告することとされています。

したがって、「効果がなかった症例」と「治療後に疾病等が発生した症例」を同じものとして扱わないことが重要です。


8.評価できなかった症例が多い場合は、その限界も考える

自由診療では、予定したフォローアップ時期に患者が来院せず、治療後の評価データを取得できないことがあります。

厚生労働省の定期報告記載要領が、評価不能例を一定の形式で集計することまで一律に求めているわけではありません。しかし、取得できたデータの範囲を客観的に評価する上では、どの程度の症例で評価できたのかは重要な情報です。

例えば、20例に治療を実施したものの、治療後評価が得られたのが5例だけで、その5例全てが改善していたとします。

この場合、「改善率100%」とだけ記載すると、20例全体で100%改善したような印象を与える可能性があります。

そのため、当事務所では必要に応じて、「20例中5例で評価可能であり、その5例では全例に改善が認められた。一方、15例についてはフォローアップデータが得られておらず、本結果のみから全症例について有効性を評価することには限界がある」といった形で評価対象となった症例数を明確にする方法を採用しています。

得られたデータだけでなく、「得られていないデータ」も踏まえて結果を解釈することが重要です。


9.症例数が少ない場合は、結果と評価の限界を分ける

報告対象期間中の症例数が数例しかないこともあります。

例えば、3例全てで評価指標の改善が認められた場合、その事実を定期報告に記載することはできます。

しかし、3症例の結果のみをもって、一般的に「本治療の有効性が証明された」と結論づけることは科学的には困難です。

症例数が少ない場合に特定の注意書きを記載しなければならないという一律のルールがあるわけではありませんが、科学的妥当性を適切に評価するという観点からは、得られた結果とその限界を区別することが重要です。

例えば、「対象期間中の3例では全例で評価指標の改善が認められた。一方、症例数が少なく、比較対照を設定した評価ではないため、本結果のみをもって本治療の有効性について確定的な評価を行うことには限界がある」といった記載が考えられます。

定期報告は治療を宣伝するための資料ではありません。実際に得られたデータから判断できる範囲を適切に示す必要があります。


10.報告期間中の実施症例が0件の場合は「該当なし」と記載する

報告対象期間中に再生医療等の提供実績が0件の場合であっても、定期報告書の提出自体は必要です。

一方、実施症例がなければ、自院の症例データに基づいて安全性や科学的妥当性を評価することはできません。そのため、症例0件の場合の科学的妥当性についての評価は「該当なし」と記載します。

したがって、症例が存在しないにもかかわらず、「治療の科学的妥当性は維持されている」「安全性に問題は認められなかった」など、自院の提供実績に基づく評価が行われたかのような記載をすることは適切ではありません。

なお、提供計画の根拠となっている文献について、新たな科学的知見や安全性情報が公表されていないかを継続的に確認することは、医療機関が再生医療等を適切に運用する上では有用です。

ただし、これは「症例0件の場合の定期報告書における科学的妥当性についての評価」とは区別して考える必要があります。


11.「安全性」と「科学的妥当性」は別の評価項目として整理する

現在の定期報告書では、「再生医療等の安全性についての評価」と「再生医療等の科学的妥当性についての評価」は別の項目になっています。

安全性については、提供計画に記載した安全性に関する検討内容などを踏まえ、報告期間中の疾病等の発生状況、不適合の発生状況とその後の対応などから、実際に得られた安全性を科学的に評価します。

一方、科学的妥当性については、提供計画に定めた評価方法に基づき、再生医療等の提供によって得られた有効性・安全性等のデータを客観的に評価します。

両者は別の記載項目ですが、全く無関係という意味ではありません。

一定の有効性が確認されていても、重篤な疾病等が多数発生しているような場合には、その安全性上のリスクを無視して治療の妥当性を判断することはできません。

したがって、定期報告書上は安全性評価と科学的妥当性評価を区別して記載しつつ、最終的な治療の評価では、利益とリスクの双方を踏まえて考える必要があります。


12.改正法施行前からの提供計画も評価が必要

令和7年10月17日の記載要領では、改正法施行前に受理された再生医療等提供計画についても、定期報告を審査する認定再生医療等委員会が科学的妥当性について判断できるように記載することが求められています。

したがって、「以前の提供計画には現在のような評価方法の欄がなかったから、科学的妥当性を評価しなくてよい」ということにはなりません。

旧計画を継続している医療機関でも、実際にどのような評価データを取得しているのかを確認し、委員会が判断できる形に整理する必要があります。

長期間運用している提供計画ほど、当初想定していたフォローアップと現在の診療実態がずれている場合があります。

定期報告の直前だけでなく、現在の評価方法が実際の診療で実行できているかを一度確認しておくことが重要です。


13.当事務所では「評価文」より先に症例データを確認する

当事務所で定期報告の科学的妥当性を整理する際には、最初から評価文を作成するのではなく、まず評価の根拠となる症例データを確認しています。

確認する内容は治療によって異なりますが、対象症例数、提供計画に定められた評価指標、治療前後の評価値、評価時期、有害事象、評価不能例などを整理します。

複数症例について比較可能な数値データがある場合には、必要に応じて治療前後の平均値や改善症例数を確認します。また、「著効」「改善」「軽微」「無効」といったカテゴリー分類を行う場合には、各分類の判定基準を確認します。

これらは厚生労働省が一律に指定している定期報告の様式ではなく、提供計画に定めた評価方法に基づくデータを、より客観的に把握するために当事務所で採用している実務上の整理方法です。

科学的妥当性の評価は文章表現の問題ではありません。評価文の裏側に、実際の症例データが存在していることが重要です。


14.医療機関で現在確認しておきたいこと

次回の定期報告に備えるためには、まず提供計画に定めた科学的妥当性の評価方法と、実際の診療で取得しているデータが一致しているかを確認することが重要です。

具体的には、提供計画に評価方法が記載されているか、その方法に基づくデータを取得できているか、有効性・安全性に関するデータを客観的に整理できるか、疾病等や不適合を把握できているかを確認します。

その上で、実務上のデータ管理として、治療前後の比較可能な指標、評価可能症例数、必要に応じた平均値や改善症例数、評価不能例とその理由などを症例一覧に整理しておくと、定期報告時の評価が大幅に行いやすくなります。

症例を「改善」「無効」などに分類する場合には、判定基準もあらかじめ明確にしておくことが望ましいでしょう。


まとめ

再生医療等の定期報告における「科学的妥当性についての評価」で、厚生労働省が明確に求めているのは、再生医療等提供計画に記載した評価方法に基づき、有効性・安全性等に係るデータを「客観的に評価可能な形」で記載することです。

平均値の算出、改善症例数の集計、「著効・改善・軽微・無効」といった分類は全ての治療に共通する法定の記載方法ではありません。一方で、提供計画に定めた評価方法との整合性を確保した上で、症例データを客観的に整理するための実務的な方法として有効な場合があります。

また、評価指標の悪化と疾病等の発生は区別して確認し、フォローアップできなかった症例や症例数が少ない場合には、得られたデータの限界も踏まえて評価することが重要です。

報告対象期間中の実施症例が0件の場合は、科学的妥当性についての評価は「該当なし」と記載します。院内で最新の科学的知見を確認することと、症例0件の場合の定期報告上の評価は分けて考える必要があります。

科学的妥当性の評価は、定期報告書の提出直前に文章を作成するところから始まるものではありません。治療開始前に評価方法を設定し、日常診療の中で必要なデータを継続的に取得・管理するところから始まっています。

林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成に加え、定期報告に使用する評価方法の整理、症例データの集計、安全性・科学的妥当性の評価文作成、認定再生医療等委員会への定期報告、地方厚生局への提出までサポートしています。

「症例データはあるものの、どのように科学的妥当性を評価すればよいか分からない」「現在の症例一覧で次回の定期報告に対応できるか確認したい」という医療機関様は、お気軽にご相談ください。

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