PRP(多血小板血漿)や幹細胞を用いた治療は「再生医療等安全性確保法」により「再生医療等」として定義され、実施するためには「(特定)認定再生医療等委員会(以下、委員会と表記します)」の審査を通過した上で管轄の地方厚生局に「再生医療等提供計画」を提出する必要があります。
この手続きの中で、委員会による審査が最大のハードルとなっていますが、どこの委員会を選ぶかは医療機関側が自ら決めることができ、委員会によって審査基準や審査手数料が異なるため、どの委員会を選択するかが重要なポイントとなります。
そこで、本記事では委員会の選び方を解説します。
まずは、委員会を選ぶにあたって知っておくべきことについて解説します。
【(特定)認定再生医療等委員会とは】
委員会は再生医療等に関連する分野の専門家等を委員として構成される審査組織であり、委員会を設置するためには厚生労働省により認定を受ける必要があります。
委員会は特定認定再生医療等委員会とそれ以外の認定再生医療等委員会に分かれており、特定認定再生医療等委員会だけが第1種、第2種の再生医療等提供計画の審査をすることができます。
特定再生医療等委員会は第3種の審査も可能ですが、第1種、第2種と第3種の審査では委員の構成要件等も異なりややこしくなりやすいため、設置者が同じでも第1種、第2種を審査する特定認定再生医療等委員会と第3種のみを審査する認定再生医療等委員会を分けて設置しているところもあります。
委員会は、再生医療等を始める際の新規審査や、年一回の定期報告や疾病発生時の報告の審査、計画内容を変更する場合の変更審査を行います。
委員会運営には非営利性が求められますが、審査を受ける医療機関から審査手数料として徴収し、委員への謝礼や事務手数料等を捻出しています。
医療機関から徴収する審査手数料は委員会が各自で決めることができますが、算定の根拠を明確にすることが求められ、認定申請の際に金額と算定根拠を示して申請を行なっています。
なお、委員会は医療機関も設置できるため自院の計画を審査するために委員会を設置するという方法もありますが、設置するための準備や申請の煩雑さを考えると、自院の計画を審査するためだけに委員会を設置することはあまりお勧めできません。
【委員会の探し方】
厚生労働省により認定された委員会は以下の厚生労働省のHPに掲載されています。
こちらのページから審査手数料や委員の構成、これまでの審査履歴を確認することができます。
以上の基本的な知識を踏まえて、委員会を選ぶための4つのポイントを紹介します。
①審査手数料
まずは、審査を受ける際に委員会に支払う審査手数料についてです。
前述の通り、委員会が徴収する審査手数料の金額は委員会が各自で決められるため、委員会によって異なり、コストの観点から委員会を選ぶ上での重要なポイントとなります。
審査手数料については新規審査の手数料も重要ではありますが、特に着目すべきなのが定期報告の手数料です。
新規審査は基本的には一回限りとなりますが定期報告は年一回必要となるため、定期報告が安い委員会を選んだ方が長期的に見るとコスト削減につながります。
【特定認定再生医療等委員会】
新規審査の手数料は約50万円〜60万円(税別)、定期報告の手数料は約10万円〜30万円ぐらいが一般的です。
【認定再生医療等委員会(第3種のみを審査する委員会)】
新規審査に手数料は約15万円〜30万円(税別)、定期報告の手数料は約4万円〜20万円ぐらいが一般的です。
審査手数料が高いことには何らメリットはないため安ければ安い方がいいのですが、後述するように委員会によって審査基準等も異なりますので、審査手数料は委員会を選ぶにあたって大きなポイントではありますが、それだけで決めるのではなく、他の要素も踏まえて選ぶことが重要です。
②審査基準
2つ目は、審査基準についてです。
審査基準については「再生医療等提供基準」と呼ばれる基準が法令によって定められており、委員会はその基準に照らして審査を行うこととされていますが、それでも委員会によって独自の基準を設けている場合があります。
この委員会によって異なる審査基準を把握していなければ、審査を受けても通過できずに他の委員会で審査を受け直すという事態にもなりかねません。
審査基準の違いについては特定認定再生医療等委員会において特に顕著であり、第2種の再生医療等提供計画の審査を受けようとする場合は特に重要となります。
例えば、以下のような審査基準の違いがあります。
【全ての計画に共通】
・実施医師(又は歯科医師)の臨床経験
対象とする治療法に対する別の治療の臨床経験や、使用する特定細胞加工物(PRP、脂肪幹細胞)に関する経験(メーカー、CPC、既に実施している他の医療機関による研修受講等を含む)があれば実施医師としての基準を満たしていると判断する委員会が多いですが、中には対象疾患の分野に関する専門医資格を要求している委員会もあります。
【培養細胞を用いる場合】
・細胞生存率
「細胞生存率の規格が○%以上であること」を基準として定めている委員会が多く、80%以上や90%以上等、委員会によって異なります。
・細胞培養に用いる原料等
代表的な例としてはFBS(ウシ胎児血清)が挙げられます。FBSは細胞培養に用いる原料として一般的ではありますが、安全面のリスクから使用を認めていない委員会もあります。
・細胞加工物の保存・輸送方法
最近はあまりないと思われますが、以前は細胞加工物を凍結して保存・輸送することは認めないという基準を定めていた委員会もあります。現在では、凍結保存の場合は細胞凍結液を洗浄により除去していなければ認めないという基準を定めている委員会があります。
詳しい審査基準については公開していない委員会が多く、先述した厚生労働省のHPから審査履歴及び議事録を調べることである程度は把握できますが、公開された情報から詳細について把握することは困難です。
必要に応じて委員会に事前に問い合わせる等の対応が求められます。
③審査スケジュール、審査の流れ
3つ目のポイントは、審査スケジュールや審査の流れです。
審査スケジュールについては、審査の頻度や申込期限・提出期限、審査後のスケジュールが重要となります。
審査の頻度については月1回開催のところが多いですが、月に複数回開催しているところや審査申込があった場合にのみ不定期開催している委員会もあります。
申込期限・提出期限については短いところで1週間前、長いところでは1ヶ月以上前のところもあります。
審査後のスケジュールについては、審査が行われてから承認されて意見書、審査記録等が発行されるまでの期間が委員会により異なり、一週間程度のところもあれば長くて1ヶ月以上かかるところもあります。
当然ながらできるだけ早く審査を受けられる方が良いため、頻度が多く、申込期限・提出期限が短く、審査後の承認が早い方が良いのですが、繰り返しになりますが他の要素も踏まえて検討する必要があります。
計画提出後にそのまま審査される委員会もあれば、事前意見が出されて対応して再提出しなければ審査を受けられない委員会もあるなど、審査の流れについても委員会によって異なります。
また、審査は書面審査だけのところと、委員会開催日にリアル又はウェブで出席して説明・答弁をしないといけないところがあります。
委員会に出席しないといけない場合は指定された日時の予定を空ける必要があります。
④特定の業者等との関係性について
委員会には中立的で公正な運営が求められていますが、実際には特定の業者等(医療機器メーカー、代行業者、CPC等)との関係性を持っている委員会もあります。
そのような委員会では、関係性を持っている業者等が関わっている案件に合わせた審査基準等が定められてり、それ以外の案件については審査通過が難しかったり、審査通過までに余分な時間や労力を要する場合もあります。
このような関係性については当然公開されていないため把握することは難しいのですが、審査履歴及び議事録を見ると同じような名称の計画ばかりを審査していてあまり意見・質問もなされずに通過しているような場合はこのような関係性が疑われます。
関係性のある業者等の支援を受ける場合はこのような委員会を選んでも問題ありませんが、そうでない場合は避けた方が無難であると思われます。
委員会の選び方について4つのポイントを解説しましたが、非公開の情報も多く、問い合わせても教えてもらえない場合もあります。
弊所ではこれまで多数の再生医療等提供計画の作成、提出を支援させていただいており、解説させていただいたポイントを踏まえて最適な委員会を提案させていただくことが可能です。
再生医療等の導入をご検討されている場合はお気軽にご相談ください。