
再生医療等を自由診療の柱として導入する医療法人やクリニックグループでは、1つの院で開始した治療を、分院や関連クリニックにも展開したいという相談があります。
PRP療法、脂肪由来幹細胞治療、線維芽細胞治療、免疫細胞療法などは、複数院で同じメニューとして展開しやすい一方で、再生医療等安全性確保法上は注意すべき点が多くあります。
特に重要なのは、再生医療等の提供主体は、実際に治療を提供する医療機関であるという点です。
法人全体でCPCと契約している、同じ治療メニューを使っている、同じ説明同意文書を使っているというだけで、すべての分院で当然に実施できるわけではありません。
厚生労働省は、再生医療等を提供しようとする医療機関の管理者は、再生医療等提供計画を作成し、あらかじめ認定再生医療等委員会の意見を聴いたうえで、地方厚生局に提出する必要があると案内しています。また、提供計画を提出せずに再生医療等を提供した場合は、罰則の対象となることがあります。
本記事では、複数院・分院で再生医療等を実施する場合に、医療法人やクリニックグループが確認すべき実務上のポイントを解説します。
1. 再生医療等は「法人単位」ではなく「提供する医療機関ごと」に考える
複数院展開でまず注意すべきなのは、再生医療等提供計画を法人全体の包括的な手続きとして考えないことです。
医療法人が複数のクリニックを運営している場合でも、実際に再生医療等を提供するのは、それぞれの病院または診療所です。
そのため、次のような点を医療機関ごとに確認する必要があります。
・医療機関名
・所在地
・管理者
・実施責任者
・実施医師
・対象疾患
・投与方法
・細胞採取場所
・投与場所
・救急医療体制
・CPCとの連携方法
・記録管理体制
・苦情、問い合わせ対応
・定期報告の管理方法
たとえば、本院でPRP療法の提供計画を提出しているからといって、分院でも同じPRP療法を当然に提供できるわけではありません。
分院で提供する場合には、その分院の体制、実施医師、救急医療体制、記録管理、患者説明、委員会審査、厚生局提出の要否を確認する必要があります。
2. 各院の管理者が実施状況を把握できる体制が必要
再生医療等提供計画では、医療機関の管理者が重要な役割を担います。
複数院展開では、法人本部や本院の事務局が手続きを一括管理することがあります。
それ自体は実務上有効ですが、各院の管理者が自院で行われている再生医療等の実施状況を把握できない状態は問題です。
各院の管理者は、少なくとも次の事項を把握できる体制である必要があります。
・自院でどの再生医療等を提供しているか
・どの患者に実施したか
・どの医師が実施しているか
・説明同意文書の最新版はどれか
・投与件数、症例数はどのくらいか
・有害事象や疾病等が発生していないか
・不適合が発生していないか
・定期報告の期限はいつか
・CPCからの品質情報や変更連絡は共有されているか
法人本部が管理しているから、各院の管理者は分からないという状態は避けるべきです。
再生医療等は、実際の提供現場で患者に行われる医療行為です。
そのため、各院の管理者が現場の運用を把握し、必要な報告や対応ができる体制が必要です。
3. 実施医師は院ごとに整理する
複数院で再生医療等を行う場合、実施医師の整理も重要です。
同じ医師が複数院を兼務する場合もあれば、院ごとに別の医師が担当する場合もあります。
この場合、次の点を確認する必要があります。
・どの医師が、どの院で再生医療等を実施するのか
・採取を行う医師と投与を行う医師は同じか
・非常勤医師が関与するか
・新規採用医師が治療を行う前に手続きが済んでいるか
・退職した医師が提供計画上に残っていないか
・医師略歴書は院ごとに整っているか
・救急対応能力や当該治療の経験を説明できるか
厚生労働省の記載要領では、再生医療等を行う医師または歯科医師が複数名いる場合、非常勤を含め、当該再生医療等を行う全ての医師または歯科医師を記載することが示されています。
したがって、複数院で同じ治療を行う場合でも、実際に各院で担当する医師を漏れなく整理する必要があります。
「本院の医師が監修している」というだけで、分院の医師の記載や体制確認を省略できるわけではありません。
4. 同じ治療名でも、院ごとに提供内容が異なる場合がある
クリニックグループでは、同じ治療名でメニューを統一することがあります。
たとえば、「PRP関節治療」「幹細胞点滴」「肌再生治療」などです。
しかし、同じ治療名であっても、院ごとに実際の運用が異なる場合があります。
たとえば、次のような違いです。
・対象疾患が異なる
・投与部位が異なる
・投与量が異なる
・投与回数が異なる
・採取場所が異なる
・使用キットが異なる
・CPCへの搬送方法が異なる
・説明同意文書が異なる
・費用が異なる
・フォローアップ時期が異なる
再生医療等提供計画では、実際に提供する治療内容を具体的に記載する必要があります。
そのため、グループ全体で同じメニュー名を使っていても、院ごとの実態を確認しなければなりません。
特に、広告やホームページで一括して掲載している場合には、掲載内容と各院の提供計画が一致しているかを確認する必要があります。
5. 救急医療体制は院ごとに確認する
複数院展開で見落とされやすいのが救急医療体制です。
本院に救急対応設備や連携先があるからといって、分院でも同じ体制があるとは限りません。
再生医療等の救急医療体制は、実際に治療を提供する医療機関ごとに確認する必要があります。
確認すべき項目は、次のとおりです。
・各院に救急カートや急変時対応物品があるか
・酸素、AED、輸液、モニター等が整っているか
・各院の実施医師が急変時対応できるか
・各院の近隣搬送先はどこか
・連携医療機関との合意や覚書があるか
・搬送先に提供計画の内容を共有しているか
・夜間、休日、診療時間外の対応はどうするか
・患者に急変時連絡先をどう案内するか
特に、脂肪由来幹細胞の静脈投与や、侵襲を伴う採取を行う場合には、急変時対応を院ごとに具体化する必要があります。
「法人として救急対応先を確保している」という説明だけでは、各院で実際に患者が急変した際に対応できるかが分かりません。
6. CPCとの契約・連絡体制も院ごとに整理する
複数院で同じCPCを利用する場合、契約や連絡体制の整理が重要です。
法人本部がCPCと一括契約している場合でも、実際の採取、搬送、受領、投与は各院で行われます。
そのため、次の点を確認する必要があります。
・契約主体は誰か
・各院が契約範囲に含まれているか
・CPCは各院の所在地や運用を把握しているか
・各院からCPCへの検体搬送方法は決まっているか
・各院での受領確認方法は決まっているか
・品質試験結果や出荷判定書はどこに送られるか
・CPCからの変更通知は誰に届くか
・疾病等発生時の連絡先は院ごとに決まっているか
・ロット情報や出荷記録を各院で確認できるか
本部だけがCPCからの情報を受け取り、現場の分院に共有されていない状態は危険です。
CPCとの連携は、契約書上の関係だけでなく、日々の採取・搬送・受領・投与・記録に関わる実務として設計する必要があります。
7. 説明同意文書は院ごとに必要事項を確認する
複数院で同じ説明同意文書を使用する場合でも、院ごとに記載内容を確認する必要があります。
説明同意文書には、医療機関名、管理者、実施責任者、実施医師、委員会情報、問い合わせ先、費用、救急時対応、CPC情報などが含まれます。
そのため、院ごとに異なる情報がある場合には、共通テンプレートのままでは不十分です。
確認すべき項目は、次のとおりです。
・医療機関名
・所在地
・管理者名
・実施責任者名
・実施医師名
・問い合わせ窓口
・緊急時連絡先
・連携医療機関
・委員会名、連絡先
・費用
・CPC名、施設情報
・フォローアップ方法
よくある問題は、本院用の説明同意文書を分院でもそのまま使用してしまうケースです。
この場合、患者に説明した医療機関名、担当医師、問い合わせ先、救急時対応先が実態と異なる可能性があります。
説明同意文書は、患者が自分の治療について理解するための文書です。
そのため、実際に治療を受ける院の情報に合わせて整える必要があります。
8. 記録管理は「院ごと」と「法人全体」の両方で整理する
複数院で再生医療等を行う場合、記録管理の設計が非常に重要になります。
院ごとに記録を管理するだけでは、法人全体の症例数や定期報告の進捗が把握しにくくなります。
一方で、法人本部だけが一括管理していると、各院で患者対応や有害事象確認に必要な情報がすぐに見られない可能性があります。
そのため、次のように役割を分けて考えるとよいです。
各院で管理すべき情報
・患者カルテ
・説明同意書
・投与記録
・有害事象確認記録
・フォローアップ記録
・CPCから届いた出荷情報
・ロット番号
・救急時対応記録
法人本部で一元管理するとよい情報
・提供計画番号
・各院の提出状況
・委員会審査状況
・定期報告期限
・症例数、投与件数
・変更届、軽微変更届の履歴
・中止、終了手続きの状況
・CPC契約情報
・説明同意文書の版管理
記録管理では、各院の現場対応と、法人全体の期限管理の両方が必要です。
どちらか一方に偏ると、報告漏れや情報共有漏れが起こりやすくなります。
9. 定期報告の期限を計画ごと・院ごとに管理する
再生医療等の定期報告は、提供計画ごとに管理する必要があります。
複数院で再生医療等を実施している場合、院ごとに提供計画の提出日が異なり、定期報告の期限も異なる可能性があります。
そのため、法人本部では、次の情報を一覧化して管理することが望ましいです。
・医療機関名
・提供計画番号
・再生医療等の名称
・提出日
・報告対象期間
・委員会提出期限
・厚生局提出期限
・実施件数
・疾病等の有無
・不適合の有無
・担当者
・委員会意見書取得状況
・厚生局提出状況
よくある失敗は、「本院の定期報告時期に合わせて全院まとめて確認する」という運用です。
しかし、計画提出日が異なれば、報告対象期間も提出期限も異なります。
定期報告の期限管理は、医療機関ごと、提供計画ごとに行う必要があります。
10. ホームページ・広告で対応院を明確にする
複数院展開では、ホームページや広告表現にも注意が必要です。
クリニックグループのホームページで再生医療等を掲載する場合、どの院で提供している治療なのかを明確にする必要があります。
たとえば、次のような表示は注意が必要です。
・グループ全体で再生医療等を提供しているように見える
・実際には本院のみ提供している治療を、全院で提供しているように掲載している
・提供計画を提出していない院のページにも治療メニューが掲載されている
・対象疾患や投与方法が各院の提供計画と一致していない
・費用が院ごとに異なるのに共通表示になっている
・問い合わせ先や実施医師が不明確
ホームページでは、患者がどの院で、どの治療を受けられるのかを誤解しないようにする必要があります。
また、提供計画を提出していない院で再生医療等を行っているように見える広告は避けるべきです。
広告表現は、提供計画、説明同意文書、実際の運用と一致させることが重要です。
11. 複数院展開の実務チェックリスト
複数院・分院で再生医療等を実施する場合には、次の項目を確認するとよいです。
医療機関ごとの手続き
・どの院で再生医療等を提供するのか明確か
・院ごとの提供計画の要否を確認しているか
・各院の管理者、実施責任者、実施医師を整理しているか
・提供計画、説明同意文書、CPC資料が院ごとに整合しているか
実施体制
・各院の管理者が実施状況を把握しているか
・非常勤医師を含め、実施医師を漏れなく整理しているか
・医師の追加・削除時の変更手続きを確認しているか
・各院で院内研修を実施しているか
救急医療体制
・各院ごとに急変時対応物品を確認しているか
・各院ごとに連携医療機関を確認しているか
・覚書や協定が必要な場合、院ごとに整備しているか
・患者に案内する緊急時連絡先が院ごとに正しいか
CPC・品質管理
・CPCとの契約に各院が含まれているか
・採取、搬送、受領、投与の流れを院ごとに決めているか
・品質情報や変更通知が各院に共有されるか
・ロット情報を院ごとに記録できるか
記録・定期報告
・提供計画番号ごとに症例一覧を作成しているか
・院ごとに症例数、投与件数を集計できるか
・法人本部で期限管理表を作成しているか
・定期報告期限を計画ごとに管理しているか
広告・患者説明
・どの院で提供しているかホームページで明確か
・提供していない院のページに掲載されていないか
・院ごとの費用、医師、問い合わせ先が正しいか
・説明同意文書が各院の情報に合わせて作成されているか
まとめ
複数院・分院で再生医療等を実施する際に注意すべきポイントは、次のとおりです。
・再生医療等は法人単位ではなく、実際に提供する医療機関ごとの体制を確認する
・各院の管理者が、自院の再生医療等の実施状況を把握できる体制が必要
・実施医師は非常勤を含め、院ごとに漏れなく整理する
・同じ治療名でも、対象疾患、投与方法、費用、フォローアップ方法が院ごとに異なる場合がある
・救急医療体制は、各院ごとに初期対応、連携医療機関、緊急時連絡先を確認する
・CPCとの契約、採取・搬送・受領・投与の流れを院ごとに整理する
・説明同意文書は、本院用をそのまま使わず、各院の情報に合わせる
・記録管理は、院ごとの現場記録と法人本部の期限管理を組み合わせる
・定期報告期限は、医療機関ごと、提供計画ごとに管理する
・ホームページや広告では、どの院で提供している治療かを明確にする
複数院で再生医療等を展開する場合、スケールメリットがある一方で、手続き、記録、教育、報告、広告の管理が複雑になります。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成だけでなく、複数院展開時の提供計画整理、各院の実施体制確認、説明同意文書の院別整備、CPCとの契約・搬送体制確認、定期報告期限管理、変更届、疾病等報告、不適合対応まで、再生医療等の導入と運用をサポートしています。
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