再生医療等の記録管理で注意すべきこと|症例一覧・同意書・ロット情報をどう残すべきか

再生医療等を適切に運用するうえで、見落とされやすいのが「記録管理」です。

PRP療法、脂肪由来幹細胞治療、線維芽細胞治療、免疫細胞療法などでは、提供計画の作成や委員会審査に注目が集まりがちですが、実際に治療を開始した後は、症例ごとの記録、同意書、投与内容、細胞加工物の情報、評価指標、有害事象の有無などを継続的に管理する必要があります。

記録が不十分な場合、定期報告、疾病等報告、不適合対応、変更届、患者対応、CPCとの原因究明などに支障が出る可能性があります。

再生医療等では、医師または歯科医師が再生医療等を行った際に記録を作成し、再生医療等提供機関の管理者が保存することが求められています。施行規則上も、再生医療等を受けた者の氏名・生年月日、病名・主要症状、使用した特定細胞加工物等の種類、投与方法、再生医療等の内容および評価などが記録事項として示されています。 

本記事では、再生医療等を提供する医療機関が、日常運用で整えておくべき記録管理のポイントを解説します。


1. 記録管理は「定期報告の直前」に始めるものではない

定期報告の時期になってから、カルテを見返し、症例数や評価結果を集計しようとする医療機関は少なくありません。

しかし、再生医療等では、定期報告直前に記録を整えるのでは遅い場合があります。

定期報告では、報告対象期間中の症例数、投与件数、疾病等の発生状況、安全性および科学的妥当性の評価などを整理する必要があります。定期報告書の記載要領でも、実際に再生医療等を受けた者の数と投与件数を記載すること、複数回投与では1回の投与ごとに投与件数をカウントすることなどが示されています。 

つまり、日々の診療の時点で、次のような情報を記録しておかなければ、定期報告時に正確な集計ができません。

・誰に実施したか
・いつ実施したか
・どの提供計画に基づく治療か
・何回目の投与か
・どの部位に投与したか
・どの細胞加工物またはPRPを使用したか
・投与量、投与細胞数、ロット情報は何か
・治療前後の評価結果はどうか
・有害事象や疾病等は発生していないか

記録管理は、定期報告のためだけではありません。

患者の安全性確認、治療効果の評価、CPCとの連携、委員会への説明、行政対応のすべての基礎になります。


2. 症例一覧を作成しておく

再生医療等を実施する医療機関では、カルテとは別に、提供計画ごとの症例一覧を作成しておくことが非常に有効です。

症例一覧は、定期報告や委員会報告のための基礎資料になります。

最低限、次の項目を管理するとよいです。

・症例番号
・提供計画番号
・同意取得日
・施術日、投与日
・患者の年齢、性別
・対象疾患
・投与部位
・投与方法
・投与量
・投与細胞数またはPRP量
・投与回数
・使用したキット、CPC、ロット番号
・治療前評価
・治療後評価
・有害事象の有無
・疾病等報告の要否
・不適合の有無
・フォローアップ日
・備考

症例一覧を作っておけば、定期報告時に「症例数」と「投与件数」を区別して集計できます。

たとえば、1人の患者に3回投与した場合、症例数は1例ですが、投与件数は3件です。定期報告書の記載要領でも、複数回投与の場合には、症例数と投与件数を分けて数える考え方が示されています。 

この区別ができていないと、定期報告時の件数が不正確になります。


3. 同意書・説明同意文書は版管理する

再生医療等では、説明同意文書と同意書の管理も重要です。

説明同意文書は、委員会審査後に修正されることがあります。

また、費用、投与回数、委員会情報、実施医師、CPC、リスク説明などが変更されると、説明同意文書の改訂が必要になる場合があります。

そのため、次のような管理を行うべきです。

・説明同意文書に作成日、改訂日、版番号を記載する
・委員会で確認された版を明確にする
・患者に渡した版を記録する
・同意取得日を記録する
・古い版を誤って使わないようにする
・説明者、同意取得者を記録する
・同意撤回があった場合は、その日付と内容を記録する

よくある問題は、説明同意文書を修正した後も、院内で古い版が残っており、患者に古い説明文書を渡してしまうケースです。

この場合、実際に患者に説明した内容が、最新の提供計画や委員会審査済みの内容と一致しなくなる可能性があります。

説明同意文書は、単なる患者説明資料ではなく、再生医療等提供計画の運用と直結する重要書類です。


4. ロット番号・CPC情報は必ず追跡できるようにする

特定細胞加工物等を用いる再生医療等では、ロット情報やCPC情報の管理が非常に重要です。

万が一、有害事象や疾病等が発生した場合、どの細胞加工物を使用したのか、どのCPCで製造されたのか、どの製造工程・品質試験結果に基づくものかを確認できなければ、原因究明が困難になります。

記録すべき項目としては、次のようなものがあります。

・製造施設名
・施設番号
・委託先CPC
・委託業務の内容
・製造日
・出荷日
・受領日
・ロット番号
・投与日
・投与量
・投与細胞数
・生存率
・無菌試験結果
・マイコプラズマ試験結果
・エンドトキシン試験結果
・輸送条件
・温度管理記録
・出荷判定結果

施行規則上も、再生医療等に使用した細胞に関する情報や、使用した特定細胞加工物等の種類、投与方法その他の再生医療等の内容および評価が記録事項として示されています。 

CPCに製造を委託している場合でも、医療機関側でロット情報や出荷情報を確認できる状態にしておく必要があります。

「CPCに聞けば分かる」という状態では不十分です。

疾病等が発生した場合には、迅速な確認が必要になるため、医療機関側にも必要な情報を保存しておくべきです。


5. 評価指標は、治療前から記録する

科学的妥当性を評価するためには、治療後の状態だけでなく、治療前の状態を記録しておく必要があります。

たとえば、関節疾患に対するPRP療法や幹細胞治療であれば、治療前のVAS、NRS、KOOS、JOAスコア、可動域、画像所見などがなければ、治療後にどれだけ改善したかを評価できません。

定期報告書等の記載要領では、提供計画に記載した科学的妥当性の評価方法に基づき、有効性・安全性等に係るデータを客観的に評価可能な形で記載することが求められています。 

そのため、提供計画の段階で決めた評価方法を、実際の診療フローに組み込んでおく必要があります。

たとえば、次のような運用です。

・初診時に治療前評価を記録する
・投与前に基準値を取得する
・1か月、3か月、6か月などの評価時期を決める
・評価用紙を統一する
・カルテと症例一覧に反映する
・患者都合で来院できない場合の記録方法を決める
・評価不能例の扱いを記録する

「患者が良くなったと言っていた」という記録だけでは、科学的妥当性の評価としては弱くなります。

客観的に比較できる指標を残すことが重要です。


6. 有害事象・疾病等の有無を毎回確認する

再生医療等では、投与後の有害事象や疾病等の有無を継続的に確認する必要があります。

特に、脂肪由来幹細胞の静脈投与、関節内投与、脂肪採取を伴う治療などでは、発熱、悪寒、疼痛、腫脹、感染、呼吸苦、胸痛、アレルギー反応などを確認する必要があります。

疾病等報告書の記載要領では、疾病等の発生内容について、再生医療等を提供した年月日、疾病等の発生年月日、管理者が発生を知った年月日を含め、時系列順に記載することが求められています。また、因果関係についても、時間的合理性や患者背景を考慮して記載することが示されています。 

つまり、日頃から有害事象確認を記録していなければ、疾病等が発生したときに正確な時系列を整理できません。

確認すべき項目は、次のとおりです。

・症状の有無
・症状の発生日
・症状の内容
・重篤性
・入院の有無
・治療との時間的関係
・講じた措置
・転帰
・CPCへの連絡の有無
・疾病等報告の要否
・不適合報告の要否

有害事象がなかった場合でも、「有害事象なし」と記録しておくことが重要です。

記録がなければ、後から「確認したのか、確認していないのか」が分からなくなります。


7. 不適合の有無も記録する

再生医療等では、患者に健康被害が出ていない場合でも、提供計画どおりに実施されていない状態があれば、不適合として整理すべき可能性があります。

たとえば、次のようなケースです。

・予定された評価時期に評価できなかった
・古い説明同意文書を使った
・実施医師の変更手続き前に治療を実施した
・投与量が計画と異なった
・対象疾患の範囲外の患者に実施した
・選択基準・除外基準の確認記録が不足していた
・ロット番号の記録が欠落していた

重大な不適合が判明した場合は、速やかに認定再生医療等委員会の意見を聴く必要があります。近畿厚生局の手続案内でも、再生医療等提供計画の変更、疾病等、重大な不適合、中止・終了、定期報告などが、提出後に必要となる手続きとして整理されています。 

不適合が疑われる場合には、次の項目を記録します。

・発生日
・判明日
・不適合の内容
・提供計画のどの部分と異なるか
・患者への影響
・疾病等の有無
・原因
・再発防止策
・委員会報告の要否
・管理者、実施責任者への報告状況

不適合は、発生したこと自体よりも、把握せず、記録せず、改善しないことが大きな問題になります。


8. 保存期間を意識する

再生医療等の記録は、通常の診療録とは別に、長期間の保存が必要になる場合があります。

関東信越厚生局の資料では、再生医療等に関する記録について、指定再生医療等製品または指定再生医療等製品の原料と類似の原料からなる特定細胞加工物を用いる再生医療等に係る記録は30年間、それ以外は10年間保存すると説明されています。 

保存対象としては、次のようなものを整理しておく必要があります。

・再生医療等提供計画
・説明同意文書
・同意書
・症例ごとの記録
・投与記録
・評価記録
・有害事象確認記録
・CPCからの出荷情報
・品質試験結果
・ロット情報
・委員会意見書
・定期報告書
・疾病等報告書
・不適合対応記録
・変更届、軽微変更届
・中止届、終了届

記録は、紙で保存する場合でも、電子データで保存する場合でも、必要なときに確認できる状態でなければなりません。

特に、CPCとの契約終了、医師の退職、システム変更、電子カルテ変更があった場合に、記録が失われないよう注意が必要です。


9. 電子データ管理ではアクセス権限とバックアップを確認する

症例一覧や評価データをExcel、Googleスプレッドシート、クラウドストレージ、電子カルテ外のシステムで管理する場合には、個人情報管理とバックアップが重要です。

特に、自由診療の再生医療等では、事務担当者、医師、看護師、CPC、外部支援者など、複数の関係者が情報にアクセスする可能性があります。

そのため、次の点を確認します。

・誰がアクセスできるか
・編集権限を持つ者は誰か
・閲覧のみの権限を設定できるか
・退職者のアクセス権限を削除しているか
・外部支援者のアクセス範囲を限定しているか
・患者氏名を匿名化または符号化して管理できるか
・バックアップを取っているか
・誤削除時に復元できるか
・ファイルの版管理をしているか
・共有リンクが外部に漏れない設定か

記録管理の目的は、必要な情報を残すことですが、同時に、必要な人以外に見せないことも重要です。

患者情報、細胞加工情報、治療評価データは、慎重に管理する必要があります。


10. CPCとの記録の分担を決めておく

外部CPCに製造を委託している場合、医療機関とCPCのどちらがどの記録を保管するかを明確にしておく必要があります。

CPC側には製造記録、品質管理記録、出荷記録、輸送記録などがあります。

一方、医療機関側には、患者説明、同意取得、採取、投与、評価、有害事象確認、定期報告などの記録があります。

実務上は、次のような情報共有を決めておくとよいです。

・CPCから医療機関へ共有される書類
・共有されるタイミング
・品質試験結果の確認方法
・出荷判定書の保管方法
・ロット番号の記録方法
・温度管理記録の取得要否
・不適合、逸脱、品質不良時の通知方法
・疾病等発生時の記録開示方法
・契約終了後の記録照会方法

CPC側の記録があるからといって、医療機関側の記録が不要になるわけではありません。

患者に治療を提供する医療機関として、少なくとも投与した細胞加工物を追跡できる情報は、自院でも確認できるようにしておくべきです。


11. 記録管理の実務チェックリスト

再生医療等の記録管理では、次の項目を確認するとよいです。

症例一覧

・提供計画番号ごとに症例一覧を作成しているか
・症例数と投与件数を区別できるか
・投与日、投与回数、投与部位を記録しているか
・治療前後の評価結果を記録しているか
・有害事象の有無を記録しているか

同意書・説明同意文書

・同意取得日を記録しているか
・使用した説明同意文書の版番号を記録しているか
・同意撤回があった場合の記録があるか
・古い版を誤使用しない管理になっているか

細胞加工物・ロット情報

・CPC名、施設番号を記録しているか
・ロット番号を記録しているか
・出荷判定書や品質試験結果を保管しているか
・投与した細胞数、投与量を記録しているか
・疾病等発生時に追跡できる状態か

評価・フォローアップ

・治療前評価を取得しているか
・評価時期を統一しているか
・評価不能例の理由を記録しているか
・定期報告で使える形で整理しているか

有害事象・不適合

・毎回、有害事象の有無を確認しているか
・症状があった場合の時系列を記録しているか
・不適合の有無を確認しているか
・重大な不適合や疾病等報告の要否を判断するフローがあるか

保存・アクセス管理

・保存期間を把握しているか
・紙・電子データの保管場所を決めているか
・アクセス権限を管理しているか
・バックアップを取っているか
・退職者や外部支援者の権限を見直しているか


まとめ

再生医療等の記録管理で注意すべきポイントは、次のとおりです。

・記録管理は、定期報告直前ではなく、日々の診療時点から行う
・提供計画ごとの症例一覧を作成し、症例数と投与件数を区別する
・説明同意文書と同意書は、版番号、同意取得日、使用版を管理する
・CPC、ロット番号、品質試験結果、出荷情報を追跡できるようにする
・治療前から評価指標を記録し、科学的妥当性を評価できる状態にする
・有害事象がない場合も、「なし」と記録する
・不適合が疑われる場合は、内容、原因、患者影響、再発防止策を記録する
・保存期間を意識し、紙・電子データともに長期保存できる体制を整える
・CPCとの記録分担と情報共有方法を契約・運用上明確にしておく

再生医療等では、記録が残っていなければ、適切に実施したことを後から説明することが困難になります。

林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成だけでなく、症例一覧の設計、定期報告用データ管理、説明同意文書の版管理、CPC記録との整合性確認、疾病等報告、不適合対応、変更届まで、再生医療等の導入と運用をサポートしています。

再生医療等の記録管理や、定期報告に向けた症例一覧の整備でお困りの医療機関様は、まずはお気軽にご相談ください。

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