
2026年10月8日、厚生労働省は「第8回再生医療等安全性確保法の見直しに係るワーキンググループ」を開催し、エクソソームを含む細胞外小胞(EVs)および細胞培養上清液の法令上の取扱いについて検討しました。
今回公表された資料では、エクソソームを含む細胞外小胞について、再生医療等安全性確保法の対象とすべきであるという方向性が示されています。
エクソソームや幹細胞培養上清液を用いる治療は、美容医療や自由診療の分野で提供されていますが、これらは従来、細胞を含まないことが明らかな場合には再生医療等安全性確保法の対象外とされてきました。
そのため、今回の検討は、エクソソーム等を用いた医療を提供している医療機関や、これらの製剤を供給している事業者にとって重要な動きといえます。
ただし、現時点で法改正が決定したわけではありません。今回公表された内容は、あくまで今後の法制度の見直しに向けた検討資料です。
本記事では、厚生労働省のワーキンググループの資料をもとに、現行制度におけるエクソソーム・細胞培養上清液の取扱い、今回示された見直しの方向性、医療機関が確認しておくべき事項を解説します。
1.現行制度では、細胞を含まないエクソソームは原則として対象外
まず、現在の法的な取扱いを確認します。
厚生労働省が2025年5月30日に公表した「再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&A」では、エクソソームを用いる医療技術について、次のように整理されています。
Q.1-1-07では、エクソソームを含む細胞外小胞を用いた医療技術について、細胞を含まないことが明らかである場合には、再生医療等安全性確保法の対象外であるとされています。
また、Q.1-1-08では、培養上清についても、細胞が含まれないことが明らかである場合は法の対象外とされています。
したがって、現行制度では、細胞を含まないエクソソームや細胞培養上清液を用いる医療について、再生医療等安全性確保法に基づく提供計画の提出義務は生じません。
ただし、重要なのは「細胞を含まないことが明らかである場合」という条件です。
「エクソソーム」「培養上清」という名称で販売されているだけで、当然に再生医療等安全性確保法の対象外になるわけではありません。実際に投与するものの構成成分や製造方法を確認する必要があります。
出典:厚生労働省「再生医療等安全性確保法等に関するQ&A」(2025年5月30日版)Q.1-1-07、Q.1-1-08
2.2026年10月8日の検討では何が示されたのか
今回のワーキンググループでは、「エクソソームを含む細胞外小胞及び細胞培養上清液の法令上の取扱いについて」が議題となりました。
厚生労働省が公表した資料2の7ページでは、今後の対応案として、エクソソームを含む細胞外小胞を再生医療等安全性確保法の対象とすべきであるとの方向性が示されています。
その理由として挙げられているのが、エクソソームを用いる医療技術の研究開発が進展している一方で、安全性や科学的妥当性が十分に評価されないまま医療提供されるリスクがあることです。
また、現在は、実際にどのような製剤が、どの医療機関で、どのような方法により患者へ投与されているのかを、制度的に十分把握できていないという課題も示されています。
そのため、エクソソームを含む細胞外小胞について、提供の実態、健康被害の発生状況、製造・品質管理体制などを把握できる法的枠組みを設けることが提案されています。
一方、細胞培養上清液についても制度上の取扱いが検討されていますが、今回の資料で明示された法の対象化に関する提案は、エクソソームを含む細胞外小胞を中心とするものです。培養上清液全般をどのように定義し、どこまで規制対象とするかについては、今後の検討を確認する必要があります。
出典:厚生労働省「第8回ワーキンググループ資料2」6~7ページ
3.以前は対象外とされていたものが、なぜ見直し対象になったのか
エクソソームを含む細胞外小胞については、以前から再生医療等安全性確保法の対象に含めるべきか検討されてきました。
2021年11月17日に公表されたワーキンググループの取りまとめでは、当時はエクソソーム等の定義が十分明確ではなかったことや、諸外国の規制状況などを踏まえ、再生医療等安全性確保法の対象とはしないという整理が行われていました。
しかし、その後、国内外で細胞外小胞に関する研究開発が進み、製造方法や品質管理方法に関する科学的知見も蓄積されてきました。
今回の資料では、2024年10月時点の文献調査として、ClinicalTrials.govに登録されたエクソソームを用いる介入試験が128件確認されたことなどが紹介されています。
もっとも、臨床試験が多数登録されていることと、治療の有効性・安全性が確立していることは別です。試験の対象疾患、投与方法、製剤の品質、試験段階、得られた結果などを区別して評価する必要があります。
今回の制度見直しの背景には、研究開発の進展とともに、自由診療での実施状況や健康被害に関する情報を適切に把握する必要性が高まっていることがあると考えられます。
出典:厚生労働省「第8回ワーキンググループ資料2」4~6ページ
4.「エクソソーム」と「細胞培養上清液」は同じものではない
実務上、特に注意したいのが、エクソソームと細胞培養上清液の違いです。
エクソソームは、細胞から放出される細胞外小胞の一種です。一方、細胞培養上清液は、細胞を培養した後の培養液に由来する液体で、細胞が分泌したさまざまな成分が含まれることがあります。
細胞培養上清液にはエクソソームを含む細胞外小胞が存在する可能性がありますが、培養上清液そのものと、分離・精製されたエクソソームは同じものではありません。
今回の厚生労働省資料でも、細胞培養上清液をそのまま「エクソソーム治療」として投与する事例が指摘されており、その実態を把握することが重要とされています。
医療機関が製剤を導入する場合には、製品名や販売資料だけで判断せず、実際に何が含まれているのかを確認する必要があります。
例えば、「エクソソーム製剤」と説明されていても、実際には培養上清液をそのまま使用しているのか、一定の工程で細胞外小胞を分離・精製しているのかによって、品質管理の考え方が異なります。
また、どのような細胞に由来するのか、細胞を含まないことが確認されているのか、製造工程や品質試験がどのように管理されているのかも重要な確認事項です。
これらは法改正の有無にかかわらず、現在でも医療機関が確認しておくべき事項です。
5.再生医療等安全性確保法の対象外でも、薬機法の問題は残る
ここで重要なのは、再生医療等安全性確保法の対象外であることと、他の法令上の問題がないことは別だという点です。
エクソソームや細胞培養上清液を用いる医療については、薬機法との関係も考慮する必要があります。
厚生労働省は2024年7月31日、「エクソソーム試薬に係る監視指導について」という事務連絡を発出しました。
この通知は、エクソソーム等を「研究用試薬」などと称して医療機関向けに販売する事例について、薬機法上の監視指導を徹底するよう求めたものです。
例えば、研究用試薬であるにもかかわらず、疾病の治療に使用できると説明して販売する行為や、医薬品的な効果・効能を標榜する行為などが問題とされています。
また、製品の品質が承認医薬品と同等であるかのように説明する場合などについても注意が必要です。
したがって、再生医療等安全性確保法の対象外である製剤であっても、販売業者が医薬品的な効能を標榜し、医療機関に供給している場合には、薬機法違反が問題となる可能性があります。
医療機関が製剤を導入する際には、供給業者の説明、販売資料、製品の表示、使用目的などを確認し、必要に応じて薬機法上の取扱いについても検討する必要があります。
出典:厚生労働省「エクソソーム試薬に係る監視指導について」(2024年7月31日事務連絡)
6.有効性・安全性についても慎重な判断が必要
厚生労働省は2024年7月31日、「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」を発出しています。
この通知では、当時、エクソソーム等を用いた医療について、有効性・安全性が示され、薬事承認を得て製造販売されている医薬品が存在しないことを明示しています。
また、当該医療を実施する場合には、医師・歯科医師の責任の下で、特に安全性に留意する必要があるとされています。
今回のワーキンググループ資料でも、安全性や科学的妥当性が十分に評価されないまま医療提供されることへの懸念が示されています。
つまり、再生医療等安全性確保法の対象外であることを理由に、安全性や有効性に関する確認を省略してよいわけではありません。
医療機関では、少なくとも製剤の由来、製造工程、品質管理方法、患者への投与方法、想定されるリスク、根拠となる文献などを確認し、患者に適切な説明を行うことが重要です。
また、製品の供給業者が示す基礎研究や動物実験の結果を、そのまま人に対する治療効果の証明として扱うことも適切ではありません。
臨床研究の内容、対象疾患、投与経路、投与量、安全性情報などを踏まえ、得られている科学的根拠の範囲を正確に理解する必要があります。
出典:厚生労働省「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」
7.今回の資料は「法改正が決まった」という意味ではない
今回の検討内容について、最も注意していただきたいのが、現時点で法改正が決定したわけではないという点です。
2026年10月8日のワーキンググループ資料では、エクソソームを含む細胞外小胞について、再生医療等安全性確保法の対象とすべきであるという方向性が提案されています。
しかし、これは現時点での検討案であり、具体的な法改正の内容、施行時期、対象となる医療技術の範囲、リスク分類、必要な手続きなどが確定したものではありません。
そのため、「エクソソーム治療が第○種再生医療等になる」「今後すべての培養上清液について提供計画の提出が必要になる」といった断定は、現時点ではできません。
なお、2024年に成立した再生医療等安全性確保法等の改正法では、附則第2条において、細胞の分泌物等を用いる先端的な医療技術について、施行後2年を目途に法の適用の在り方等を検討し、その結果に基づき必要な措置を講じることが定められています。
今回の検討は、この附則の趣旨に沿って進められているものです。
今後、ワーキンググループでの議論、制度案の具体化、必要な法令改正などが進む可能性がありますが、施行時期や具体的な手続きについては、今後の厚生労働省の公表情報を確認する必要があります。
出典:厚生労働省「第8回ワーキンググループ資料2」4・7ページ
8.今後、法の対象になった場合に何が変わる可能性があるのか
仮に、エクソソームを含む細胞外小胞を用いた医療技術が再生医療等安全性確保法の対象となった場合、医療機関に求められる手続きや管理体制が大きく変わる可能性があります。
現在、再生医療等安全性確保法の対象となる医療技術では、リスク分類に応じて、認定再生医療等委員会による審査、再生医療等提供計画の提出、定期報告、疾病等報告、記録管理などが求められています。
また、特定細胞加工物等については、製造施設の許可・届出等や製造・品質管理に関する規制が設けられています。
将来、エクソソーム等を対象とする制度が整備されれば、こうした仕組みをどのように適用するかが検討される可能性があります。
ただし、既存の細胞加工物に関する制度が、そのままエクソソーム等に適用されると決まっているわけではありません。
今後、どのような製剤を対象とするのか、製造施設にどのような要件を設けるのか、医療機関にどのような報告義務を課すのかなど、具体的な制度設計を確認する必要があります。
9.現在エクソソーム等を提供している医療機関が確認すべきこと
今回のワーキンググループ資料が公表されたからといって、直ちに新たな変更届や提供計画を提出する必要が生じたわけではありません。
しかし、将来の制度見直しに備えるという意味でも、現在提供している治療内容を整理しておくことは有用です。
特に、次の事項を確認することをおすすめします。
- 製剤の内容:実際に使用しているものが、精製された細胞外小胞なのか、細胞培養上清液なのかを確認する。
- 細胞の有無:細胞を含まないことが明らかであるか、製造事業者の資料等で確認する。
- 原料・製造方法:原料となる細胞の由来、培養方法、分離・精製方法、品質管理方法を把握する。
- 科学的根拠:対象疾患、投与方法、投与量に対応する臨床研究や安全性情報を確認する。
- 製品の供給方法:研究用試薬として販売されているものを医療目的で使用するなど、薬機法上の問題がないか確認する。
- 患者への説明:治療の有効性・安全性が確立しているかのような誤解を与えず、得られている知見と不明な点を適切に説明する。
- 記録管理:投与した製剤、製造ロット、投与日、投与方法、健康被害の有無などを確認できるようにする。
これらは、今回のワーキンググループで新たに法定義務として定められた事項ではありません。
現在の法制度と医療安全の観点から、医療機関が自主的に確認しておくことが望ましい実務上の項目です。
10.当事務所が今回の検討で重要と考えること
今回の制度見直しで特に重要なのは、単に「エクソソームが再生医療等安全性確保法の対象になるかどうか」という問題だけではありません。
これまで、細胞を含まないエクソソームや培養上清液については、再生医療等安全性確保法の適用対象外として整理されてきました。その一方で、自由診療として医療機関で使用されていても、その製造・品質管理や投与実態を十分に把握できないという課題が存在していました。
今回の厚生労働省資料は、こうした現状を踏まえ、医療の提供実態や健康被害、製造・品質管理に関する情報を制度的に把握する必要性を示したものといえます。
一方で、新しい規制を導入する場合には、対象となる物質や医療技術の定義を明確にする必要があります。
特に、エクソソームを含む細胞外小胞と、さまざまな分泌物を含む細胞培養上清液は、同一のものではありません。製造・品質管理方法にも違いがあるため、どの範囲を法の対象とするのかが今後の重要な論点になると考えられます。
また、今回の検討が進んだとしても、それによってエクソソーム等の治療効果が公的に承認されることを意味するわけではありません。
規制の対象となることと、個別の治療について有効性・安全性が確立していることは別の問題です。
医療機関としては、法令改正の動向を確認するとともに、現在使用している製剤や治療内容について、科学的根拠と安全管理の状況を整理しておくことが重要です。
まとめ
2026年10月8日に開催された「第8回再生医療等安全性確保法の見直しに係るワーキンググループ」では、エクソソームを含む細胞外小胞について、再生医療等安全性確保法の対象とすべきであるという方向性が示されました。
現行制度では、細胞を含まないことが明らかなエクソソームや細胞培養上清液を用いる医療技術は、原則として再生医療等安全性確保法の対象外とされています。
しかし、対象外であることは、安全性や有効性が保証されていることを意味しません。また、製剤の広告・販売方法によっては、薬機法上の問題が生じる可能性もあります。
今回の見直し案は、エクソソーム等を用いた医療の提供実態、健康被害、製造・品質管理体制を把握し、安全性の確保につなげるための検討と位置付けられます。
現時点では具体的な法改正の内容や施行時期は決定していないため、今後の厚生労働省の公表情報を継続して確認する必要があります。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等安全性確保法を専門とする行政書士として、法令改正や厚生労働省通知の動向を確認しながら、再生医療等提供計画の作成、委員会対応、CPCとの連携、変更届、定期報告、自己点検等をサポートしています。
エクソソームや細胞培養上清液の法的な取扱い、再生医療等安全性確保法への該当性、今後の制度見直しについてご不明な点がある医療機関様は、お気軽にご相談ください。
出典・一次資料
1.厚生労働省「第8回再生医療等安全性確保法の見直しに係るワーキンググループ」
2026年10月8日開催。
資料2「エクソソームを含む細胞外小胞及び細胞培養上清液の法令上の取扱いについて」
参照箇所:4~7ページ。従来の取扱い、研究開発状況、法令上の取扱いに関する見直し案。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001756985.pdf
2.厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&A」
2025年5月30日版。
参照箇所:9ページ、Q.1-1-07「エクソソームを用いる医療技術は法の対象か」、Q.1-1-08「培養上清やセクレトームを用いる医療技術は法の対象か」。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001498987.pdf
3.厚生労働省「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」
2024年7月31日事務連絡。
エクソソーム等を用いる医療の安全性に関する注意喚起。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001282062.pdf
4.厚生労働省「エクソソーム試薬に係る監視指導について」
2024年7月31日事務連絡。
医薬品的効能を標榜するエクソソーム試薬等の販売に関する薬機法上の監視指導。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8664&dataType=1&pageNo=1
5.厚生労働省「再生医療等安全性確保法の見直しに係るワーキンググループ」
ワーキンググループの開催状況、議題、資料等を確認できる公式ページ。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_127344_00001.html
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