「無菌試験が適合なら安全」ではない|令和8年改訂・特定細胞加工物等の微生物学的安全性指針を医療機関向けに解説

令和8年6月12日、厚生労働省は「特定細胞加工物の微生物学的安全性に関する指針」を改訂し、「特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版)」を公表しました。

再生医療等に用いる細胞加工物は、通常の医薬品のように最終製品へ滅菌工程を適用することが難しいものがあります。そのため、細菌、真菌その他の微生物による汚染をどのように防止し、患者への投与まで無菌性を維持するかは、再生医療等の安全性を確保する上で極めて重要です。

今回の第2版では、単にCPC内で無菌試験を適切に実施するという考え方だけではなく、「細胞の採取」「特定細胞加工物等の製造」「輸送」「医療機関での保管・投与」という一連の工程を通じて微生物汚染リスクを管理する考え方が、より明確に示されています。

本記事では、今回の改訂内容を踏まえ、再生医療等を提供する医療機関が実務上どこを確認すべきなのかを解説します。


1. 令和8年6月12日の第2版では何が変わったのか

厚生労働省が公表した第2版では、主な変更内容として、指針の対象を「特定細胞加工物等」に拡大したことに加え、無菌試験の代替として核酸増幅法(NAT)を用いる場合の考慮事項、特定細胞加工物等製造施設の清掃・消毒、環境モニタリングで異常値が検出された場合の対応、輸送・保管中の管理などが追加・更新されています。

医療機関にとって特に重要なのは、輸送・保管に関する考え方が具体化されたことです。再生医療等の安全性はCPCから出荷された時点で完成するものではなく、医療機関に到着し、保管され、最終的に患者へ投与されるまで維持されなければなりません。

つまり、「CPCの無菌試験が適合だったので問題ない」という確認だけでは不十分です。出荷後の輸送、医療機関での受領、保管、解凍、投与準備まで含めて安全性を管理する必要があります。


2. 無菌試験をしても、微生物汚染リスクを完全には排除できない

今回の指針で重要な点の一つが、無菌試験その他の微生物学的安全性評価を行っても、すべての微生物汚染リスクを完全に排除できるわけではないことが明示されている点です。

無菌試験には、試験に使用できる検体量、検出感度、検査に必要な時間などの限界があります。特に、製造後短時間で患者へ投与する細胞加工物では、すべての検査結果が確定してから投与することが難しい場合もあります。

そのため、安全性確保の考え方として重要になるのは、「最終検査だけで安全性を確認する」のではなく、採取から投与までの各工程で汚染を発生させない仕組みを作ることです。

医療機関側でも、CPCから「無菌試験適合」という結果だけを受け取るのではなく、どの時点で、どの方法により検査を行い、どの結果をもって出荷判定をしているのかを把握しておくことが望まれます。


3. 「採取→製造→輸送→投与」を一つの工程として考える

第2版では、微生物汚染防止のため、細胞の採取、特定細胞加工物等の製造、輸送、医療機関での保管・投与という一連の過程についてリスク管理策を講じることが示されています。

例えば、CPC内の製造環境が適切であっても、脂肪組織や血液などの採取時に汚染が起きれば、その後の製造工程にも影響します。また、CPCから適切に出荷されても、輸送容器が破損したり、医療機関で不適切な保管が行われたりすれば、患者への投与時点で安全性を確保できません。

医療機関は、少なくとも採取時の無菌操作、CPCへの搬送条件、CPCでの製造・品質管理、CPCから医療機関への輸送、受領時確認、保管条件、投与時の清潔操作までを、一つの連続した管理工程として確認する必要があります。


4. 輸送容器の破損や漏れは「そのまま投与してよいか」を慎重に考える問題ではない

今回追加された輸送・保管中の管理では、非常に重要な考え方が示されています。

特定細胞加工物等は、出荷時に担保された無菌性を、輸送中、医療機関での保管中、投与直前まで維持する必要があります。そのため、充填容器や輸送容器について、密封状態が維持されていることを確認しなければなりません。

容器や包装の破損、緩み、内容液の漏れなどにより密封状態を確認できない場合には、無菌性が維持されていないものとして取り扱う必要があります。指針では、このような場合には当該特定細胞加工物等の投与を中止することが示されています。

これは医療機関の日常運用にも直結します。CPCから細胞加工物が届いた際に、単に「届いたので冷蔵庫に入れる」のではなく、容器の破損、漏れ、ラベル、患者識別情報、温度記録などを確認し、その記録を残す運用が必要です。


5. 温度・輸送時間・使用期限は提供計画と一致しているか

第2版では、輸送・保管における温度管理、輸送時間、特定細胞加工物等の使用期限について、あらかじめ再生医療等提供計画に明示する必要があることも示されています。

ここで重要なのは、CPCの標準作業手順書だけに条件が書かれていればよいわけではないという点です。実際の再生医療等提供計画とCPCの管理条件が一致している必要があります。

例えば、提供計画上は「2~8℃で輸送」とされているにもかかわらず、CPCの現在の運用が別の条件になっている場合には、そのまま運用を続けることは適切ではありません。輸送時間や使用期限についても同様です。

CPC側で製造方法、輸送方法、保管条件などが変更された場合には、再生医療等提供計画への影響を確認し、必要な変更手続きを検討する必要があります。


6. 凍結細胞では、解凍後の管理も重要

脂肪由来幹細胞などでは、凍結状態でCPCから医療機関へ輸送し、医療機関で解凍して患者へ投与する運用があります。

この場合には、凍結状態での輸送温度だけでなく、解凍後から患者へ投与するまでの時間や温度も重要です。

第2版では、あらかじめ設定した許容温度や使用期限の範囲内で管理すること、輸送容器内の温度をモニタリングすることなどが示されています。また、本来凍結されているべき特定細胞加工物等が輸送中などに融解していた場合には、安全性に影響する重大な逸脱として投与を中止する必要があることも示されています。

医療機関では、解凍を誰が行うのか、どのような手順で行うのか、解凍後何分以内に投与するのか、予定時刻に投与できなくなった場合にどうするのかまで、具体的に決めておくことが重要です。


7. 非凍結細胞は「時間管理」が特に重要

非凍結状態で輸送される特定細胞加工物等についても、温度と時間の管理が重要です。

細菌などの微生物は、条件によって短時間で急速に増殖する可能性があります。そのため、非凍結状態で保管・輸送する場合には、細胞自体の品質安定性だけでなく、微生物が増殖しないように管理条件を設定する必要があります。

第2版では、特に常温以上の保存条件を用いる場合には、保管期間を必要最低限とすることが求められており、規定された保管期間を超えた場合には廃棄することが示されています。

したがって、医療機関では「投与予定時刻が多少遅れた程度だから大丈夫」と現場判断するのではなく、提供計画やCPCの管理基準に定められた期限を確認する必要があります。


8. 輸送を専門業者に任せても責任がなくなるわけではない

細胞加工物の輸送には、専門の物流会社や医療物流業者が利用されることがあります。

しかし、輸送を外部委託すれば、CPCや医療機関が管理しなくてよくなるわけではありません。

第2版では、輸送・保管を専門業者に外部委託する場合でも、トレーサビリティの確保を含め、委託者の責任において業務を適正に管理することが示されています。

そのため、契約時には、温度管理方法、輸送容器、輸送時間、温度逸脱時の連絡、配送遅延時の対応、受領確認、記録の保存などを確認しておく必要があります。

特に、問題が発生したときに、「運送会社の問題なので分からない」という状態にならないよう、どの記録を誰が保存し、医療機関がどの情報を確認できるのかをあらかじめ整理しておくことが重要です。


9. 当事務所で提供計画やCPC資料を確認するときに重視していること

当事務所で再生医療等提供計画やCPC関連資料を確認する際には、品質試験の項目だけを見るのではなく、「実際に患者へ投与されるまでの流れが書類上つながっているか」を重視しています。

例えば、CPC資料では輸送条件が明確に定められているのに提供計画へ反映されていない、提供計画の投与方法とCPCの出荷形態が噛み合っていない、医療機関で解凍することになっているものの解凍後の取扱いが十分に整理されていない、といった点は、書類を個別に見るだけでは見落としやすい部分です。

また、品質管理試験についても、「無菌試験、マイコプラズマ試験、エンドトキシン試験を実施している」という項目確認だけではなく、いつ採取した検体で試験するのか、いつ結果が判明するのか、その結果が投与前に確認できるのか、結果判明前に投与する場合はどのようにリスク管理するのかまで確認することが重要です。

今回の第2版は、こうした「採取から投与までを一連の工程として確認する」という実務上の考え方を、より明確に示した指針といえます。


10. 医療機関が現在確認しておきたいポイント

令和8年6月12日の指針改訂を踏まえ、既に再生医療等を提供している医療機関でも、現在の提供計画と実際の運用を一度照合しておくことをおすすめします。

  • 細胞採取からCPCへの搬送方法が提供計画と一致している
  • CPCから医療機関への輸送温度・輸送時間が明確になっている
  • 特定細胞加工物等の使用期限が明確になっている
  • 医療機関での受領確認方法を決めている
  • 容器の破損・漏れ・密封状態を確認している
  • 温度記録を確認・保存している
  • 凍結品の場合、解凍方法と解凍後の投与期限を定めている
  • 投与延期となった場合の取扱いを決めている
  • 輸送・保管の逸脱が発生した場合の連絡フローがある
  • CPCの最新資料と現在の再生医療等提供計画が一致している
  • 患者に微生物学的安全性の考え方とその限界を適切に説明できる

特に、提供計画を数年前に作成し、その後CPC側の運用が変更されている場合には注意が必要です。CPC資料、提供計画、実際の院内手順を横断して確認することが重要です。


まとめ

令和8年6月12日に公表された「特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版)」では、微生物学的安全性について、無菌試験だけではなく、細胞の採取、製造、輸送、医療機関での保管・投与という一連の工程を通じて管理する考え方が明確になりました。

医療機関にとって重要なのは、「CPCの検査結果が適合しているから安全」と考えるのではなく、出荷された細胞加工物が適切な条件で輸送され、自院で正しく受領・保管され、定められた期限内に適切な方法で投与されているかまで確認することです。

特に、輸送容器の破損、温度逸脱、輸送時間超過、凍結品の融解などは、患者の安全性に直結する問題です。異常が発生した際に現場で迷わないよう、CPCとの連絡体制、投与可否の判断方法、記録方法まで事前に整えておく必要があります。

林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成だけでなく、CPC資料と提供計画の整合性確認、製造・品質管理方法の確認、輸送・保管条件の整理、変更届、自己点検、委員会対応まで、再生医療等の導入と運用をサポートしています。

現在の再生医療等提供計画とCPCの最新運用が一致しているか不安がある医療機関様は、お気軽にご相談ください。


出典

厚生労働省「『特定細胞加工物の微生物学的安全性に関する指針』の一部改正について」(令和8年6月12日 医政研発0612第1号)

厚生労働省「特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版)」

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