厚生労働省は、今月20日に埼玉県の民間クリニック「埼玉メディカルクリニック」に対して、再生医療等安全性確保法違反により治療の一部停止を求める緊急命令を出しました。
このクリニックでは、アンチエイジングなどを目的として、他人の臍帯血を用いた再生医療等を実施しており、再生医療等安全性確保法により再生医療等提供計画の提出が必要となった2015年12月からこれまでに8人に対して治療を行ったことがわかっています。
この治療法は、他人の細胞を用いるため、再生医療等安全性確保法において最もリスクが高いとされる第1種再生医療等技術に分類されますが、クリニックでは再生医療等提供計画を提出せずに再生医療等を実施していました。
臍帯血を用いた再生医療等については、再生医療等提供計画の提出を行わずに治療を実施しているという通報が厚生労働省に多数寄せられており、平成28年6月3日付けで注意喚起を求める事務連絡も発出されていました。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000150816.pdf
このような中で、クリニックも再生医療等提供計画の提出が必要であることをわかっていなかったという可能性は低いと思われます。
おそらく、手続きが必要であることをわかっておきながら、再生医療等提供計画を作成、提出するのが困難であるために手続きを行わずに再生医療等を提供していたのではないでしょうか。
再生医療等提供計画の提出先は厚生労働省(または地方厚生局)ですが、提出する前に(特定)認定再生医療等委員会の審査を受ける必要があります。
第1種再生医療等の場合はさらに厳しくなっており、特定認定再生医療等委員会による審査を通過して厚生労働省へと計画を提出したあと、厚生労働省内に設置された厚生科学審議会再生医療等評価部会において確認を受け、承認されなければ再生医療等を提供することができません。
そして、臍帯血を用いたアンチエイジング目的の治療については、現時点では科学的根拠に乏しく、安全性や有効性が証明されていないため、再生医療等評価部会による承認を受けることは不可能に近いのが現状です。
そのため、実質的にはアンチエイジング目的の臍帯血を用いた再生医療等については、再生医療等提供計画を提出するという正規の手続きを行うことができない状況にあります。
このような背景から、クリニックは再生医療等提供計画を提出せずに再生医療等を提供し続け、今回の緊急命令に至ったものと思われます。
当事務所でも、「アンチエイジング」を目的とした再生医療等についてのご相談をいただくことも多いのですが、十分な科学的根拠に基づいて「アンチエイジング」効果が証明されているような再生医療等技術はほとんど存在しておらず、再生医療等提供計画を作成しても審査に通らない可能性が高いのが現状ではないかと思います。
まだ第2種再生医療等であれば、何とか特定認定再生医療等委員会の審査を通すことができる可能性もありますが、今回の事例のように第1種再生医療等に該当する治療法については再生医療等評価部会による審査も通過しなければならないため、実質的に不可能に近い状況です。