
個人開設のクリニックを医療法人化する場合、医療法上の開設手続きや診療報酬に関する手続きなど、さまざまな行政手続きが必要になります。
その中で見落とされやすいのが、再生医療等安全性確保法に関する手続きです。
PRP療法や脂肪由来幹細胞治療などを実施している医療機関では、既に再生医療等提供計画を提出している場合があります。しかし、個人開設の医療機関を医療法人化する場合、現在の提供計画をそのまま引き継ぐことはできません。
厚生労働省の令和7年5月30日付「再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&A」では、個人開設の医療機関が法人化する場合、旧医療機関の提供計画について中止届・終了届を提出し、法人化後の医療機関では新たに提供計画を提出する必要があることが明記されています。
また、院内でPRPなどの特定細胞加工物を製造している場合には、製造施設側の手続きも必要になります。
本記事では、医療法人化に伴う再生医療等提供計画、定期報告、患者フォロー、特定細胞加工物等製造施設の手続きについて、実務上の注意点を解説します。
1.医療法人化は「管理者や開設者の名称変更」では済まない
個人開設のクリニックが医療法人化する際、医療機関の名称、所在地、院長、診療内容などが変わらない場合があります。
例えば、個人開設の「○○クリニック」が医療法人化した後も、同じ建物で、同じ院長が、同じPRP療法を提供するケースです。
このような場合、「治療内容も医師も変わらないので、再生医療等提供計画の変更届で対応できるのではないか」と考えられることがあります。
しかし、厚生労働省の令和7年5月30日付Q&A(Q.2-3-05)では、個人開設の医療機関が法人化する場合の手続きについて、次のように整理されています。
個人開設時の医療機関の管理者は、再生医療等提供中止届書(様式第4)および再生医療等提供終了届書(治療の場合は通知様式第9の2)を提出し、法人化後の医療機関の管理者は新たに再生医療等提供計画を提出する必要があります。
つまり、医療法人化に伴って医療機関を廃止・新規開設する場合、旧計画を単なる変更届によって法人へ引き継ぐことはできません。
この点は、再生医療等の提供体制そのものが変わらない場合でも注意が必要です。
出典:厚生労働省「再生医療等安全性確保法等に関するQ&A」Q.2-3-05
2.個人開設時の提供計画は中止・終了の手続きを行う
医療法人化に伴い個人開設の医療機関を廃止する場合、個人開設時に提出した再生医療等提供計画について、中止・終了の手続きを行います。
再生医療等の提供を中止する場合には、原則として中止日から10日以内に、様式第4「再生医療等提供中止届書」を提出します。
また、治療として実施している再生医療等について、提供を終了する場合には、通知様式第9の2「再生医療等提供終了届書」を提出する必要があります。
通常、提供終了届は、既に再生医療等を受けた患者への必要な措置を終えた後に提出します。しかし、医療機関の廃止などの場合には、中止届と終了届を同時に提出できることが、厚生労働省のQ&Aで示されています。
したがって、医療法人化による廃止の場合には、個人開設時の計画について中止届と終了届を同時に提出する方法も考えられます。
ただし、患者への必要なフォローアップが残っている場合、その対応を行わなくてよいという意味ではありません。医療機関の廃止後も患者の安全性を確保できるよう、必要な情報や対応を引き継ぐことが重要です。
3.法人化後は新たに委員会審査と提供計画の提出が必要
法人化後の医療機関で再生医療等を継続して提供する場合には、新たな再生医療等提供計画を作成する必要があります。
治療として実施する場合は、様式第1の2「再生医療等提供計画(治療)」を使用します。
新規の提供計画となるため、認定再生医療等委員会または特定認定再生医療等委員会の審査を受け、その意見を聴いた上で、厚生労働大臣または地方厚生局長へ提出する必要があります。
ここで注意すべきなのは、以前の計画と同じ内容であるからといって、委員会審査や新規提出を省略できるわけではないという点です。
例えば、次のような事項が変わらない場合でも、新規計画として必要な手続きを行うことになります。
- 対象疾患
- 投与方法、投与回数、投与量
- 実施医師、実施責任者
- 使用するCPC
- 説明同意文書の基本的な内容
もっとも、以前の提供計画に関する資料を、新しい計画を作成する際の基礎資料として活用することは可能です。
ただし、医療機関の開設者、管理者、医療機関情報、契約主体、救急医療体制などについては、法人化後の実態に合わせて確認する必要があります。
4.提供計画の切替時期は医療法人化のスケジュールから逆算する
医療法人化に際して重要なのが、提供計画の切替時期です。
医療法人化は、法人設立だけで完了するものではありません。実際に医療法人が診療所を開設するためには、医療法に基づく必要な手続きを経ることになります。
再生医療等についても、法人化後の新しい医療機関が、必要な提供計画の提出手続きを完了していなければ、その医療機関で再生医療等を開始することはできません。
そのため、法人化の準備段階から、次の事項を確認しておく必要があります。
まず、個人開設の医療機関で、いつまで再生医療等を提供するのかを決めます。次に、法人化後の医療機関でいつから再生医療等を開始する予定なのかを整理します。
その上で、認定再生医療等委員会の審査日程、提出書類の準備期間、厚生局への新規提出手続きなどを確認します。
特に注意したいのは、新規の委員会審査が必要になることです。法人化の直前に準備を始めた場合、予定していた時期に新しい計画の手続きが完了しない可能性があります。
PRP療法などを継続して提供する予定であれば、法人化の予定日だけでなく、委員会の開催日程から逆算して準備を進めることが重要です。
5.個人開設時と法人化後の定期報告は分けて管理する
医療法人化に伴う手続きでは、定期報告の整理も重要です。
再生医療等提供状況定期報告は、提供計画を提出した日を基準として、1年ごとに行う手続きです。
個人開設の医療機関で提出した計画と、法人化後の医療機関で新たに提出する計画は、それぞれ別の提供計画になります。
そのため、個人開設時の提供実績と法人化後の提供実績を、単純に合算して一つの定期報告として扱うことは適切ではありません。
個人開設時の提供計画については、中止・終了までの実施状況や未報告期間を確認し、必要な定期報告を整理します。
一方、法人化後の提供計画については、新たな提供計画の提出日を基準として、定期報告の対象期間と期限を管理することになります。
例えば、法人化の前後で同じ医師が同じPRP療法を行っていたとしても、どの提供計画に基づいて実施した症例なのかを区別できるようにしておく必要があります。
これは、実施件数の集計だけでなく、安全性や科学的妥当性の評価を適切に行うためにも重要です。
6.患者のフォローアップは法人化後も継続できる体制を整える
再生医療等では、治療後の安全性確認や科学的妥当性の評価のため、一定期間のフォローアップを行うことがあります。
法人化の時点で、個人開設時に治療を受けた患者のフォローアップが完了していない場合には、その後の対応を整理する必要があります。
例えば、個人開設時にPRP療法を実施した患者について、法人化後に3か月後や6か月後の評価を行うケースです。
この場合、実際の診療は法人化後の医療機関で継続するとしても、当初の治療が個人開設時の提供計画に基づいて行われたものであることは変わりません。
そのため、患者の診療記録、投与記録、評価結果、有害事象の確認記録などについて、適切に引き継ぎ、必要な対応を継続できる体制を整えておくことが重要です。
厚生労働省のQ&A(Q.2-3-07)でも、医療機関が廃止した場合には、各種報告を含め、再生医療等を受けた者のフォローに必要な情報や手続き等について、可能な限り他医療機関への引継ぎを行うことが示されています。
中止届・終了届を提出することと、患者に対する適切なフォローアップを行うことは、分けて考える必要があります。
7.院内CPCがある場合は、製造施設側でも廃止・新規届出が必要
院内でPRPなどの特定細胞加工物を製造している医療機関では、再生医療等提供計画だけでなく、製造施設についても手続きが必要になります。
近畿厚生局は、医療機関の開設者変更(法人化を含む)や移転の場合には、特定細胞加工物等製造施設について、廃止届、必要な定期報告、新規の製造届書を提出するよう案内しています。
したがって、個人開設時に特定細胞加工物等製造届を提出していた場合、その届出を単なる変更届によって法人へ引き継ぐことはできません。
個人開設時の製造施設について廃止手続きを行い、法人化後の製造施設について新規届出を行う必要があります。
国内の医療機関内に製造施設を設置する場合には、様式第27「特定細胞加工物等製造届書」を使用します。
また、製造施設の新規届出では、施設の構造設備に関する書類などを準備する必要があります。
同じ場所で、同じ遠心分離機やクリーンベンチを使用する場合でも、新しい開設者の下で製造を行うための手続きが必要である点に注意が必要です。
なお、特定細胞加工物等製造届やその廃止届は、認定再生医療等委員会の審査対象ではありません。 提供計画側の委員会審査とは区別して手続きを進めます。
出典:近畿厚生局「特定細胞加工物等の製造に係る手続について」
8.CPCへの製造委託契約や説明同意文書も確認する
外部CPCへ製造を委託している医療機関では、法人化に伴って契約主体が変わることがあります。
例えば、個人開設時には院長個人がCPCと契約していたものの、法人化後は医療法人が契約主体になる場合です。
この場合、製造委託契約について、契約上の地位の取扱いや新たな契約の要否を確認しておくことが重要です。
また、患者向けの説明同意文書についても、法人化後の医療機関の情報と一致しているかを確認する必要があります。
特に確認したいのは、医療機関名、管理者名、実施責任者、実施医師、問い合わせ先、費用、健康被害が生じた場合の対応などです。
これらの確認は、法人化によってすべての契約書や説明文書を一律に作り直す法定義務があるという意味ではありません。
実際の契約内容や新しい提供計画との整合性を確認し、必要な対応を行うための実務上の確認事項です。
9.法人化に伴う手続きは、3つの区分で整理する
医療法人化を予定している医療機関では、再生医療等に関する手続きを大きく3つに分けて管理すると整理しやすくなります。
まず、個人開設時の医療機関に関する手続きです。既存の再生医療等提供計画について、中止届・終了届、必要な定期報告、患者フォローの引継ぎを整理します。
次に、法人化後の医療機関に関する手続きです。新規の再生医療等提供計画を作成し、委員会審査、厚生局への提出、説明同意文書や実施体制の整備を進めます。
最後に、特定細胞加工物等製造施設に関する手続きです。院内CPCがある場合には、個人開設時の製造施設の廃止と、法人化後の製造施設の新規届出を行います。
これらは関連する手続きですが、それぞれの提出先、必要書類、期限、審査の有無が異なります。
そのため、医療法上の法人化手続きだけでなく、再生医療等の手続きについても全体のスケジュールを整理することが重要です。
10.医療法人化を予定している医療機関のチェックリスト
法人化の準備段階では、少なくとも次の事項を確認しておくことをおすすめします。
- 現在提出している再生医療等提供計画を一覧化している
- 個人開設時の計画について中止届・終了届の準備をしている
- 未報告の定期報告期間がないか確認している
- 個人開設時の患者フォローの引継ぎ方法を決めている
- 法人化後の新規提供計画を作成している
- 委員会の審査日程と提出期限を確認している
- 法人化後の医療機関情報・実施体制を確認している
- 説明同意文書やCPC契約を確認している
- 院内CPCがある場合は製造施設の廃止・新規届出を準備している
- 法人化前後の再生医療等提供計画番号と実施症例を区別して管理できる
特に重要なのは、法人化の日程が決まった段階で、再生医療等の手続きも同時に検討することです。
再生医療等の新規提供計画には委員会審査が必要であるため、法人化の直前になって準備を始めると、予定した時期に治療を開始できない可能性があります。
まとめ
個人開設のクリニックを医療法人化する場合、再生医療等提供計画をそのまま法人へ引き継ぐことはできません。
厚生労働省の令和7年5月30日付Q&Aでは、個人開設時の医療機関の管理者が中止届・終了届を提出し、法人化後の医療機関の管理者が新規の提供計画を提出する必要があることが明記されています。
また、院内でPRPなどの特定細胞加工物を製造している場合には、製造施設についても廃止・新規届出が必要です。
さらに、個人開設時の定期報告と法人化後の定期報告は分けて管理する必要があり、患者のフォローアップやCPCとの契約についても確認しておかなければなりません。
医療法人化では、医療法上の開設手続きに注目が集まりがちですが、再生医療等については、既存計画の終了、新規計画の提出、製造施設の手続き、患者対応まで一体的に整理することが重要です。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の新規作成だけでなく、医療法人化に伴う中止届・終了届、定期報告の整理、院内CPCの廃止・新規届出、委員会対応、説明同意文書の整備までサポートしています。
再生医療等を実施している医療機関で、医療法人化や開設者変更をご検討中の場合は、お気軽にご相談ください。
出典・一次資料
1.厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律等に関するQ&Aについて」
令和7年5月30日付事務連絡。主な参照箇所は、Q.2-3-05「個人開設の医療機関が法人化する場合」、Q.2-3-06「医療機関を廃止し、新たに個人開設する場合」、Q.2-3-07「中止届と終了届の同時提出」です。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001498987.pdf
2.近畿厚生局「再生医療等提供計画に係る手続について」
参照箇所:「再生医療等提供計画の内容を変更しようとするとき」「再生医療等の提供を中止・終了するとき」「定期報告」。
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iji/saisei/saisei_top_00005.html
3.近畿厚生局「特定細胞加工物等の製造に係る手続について」
参照箇所:「登録情報に変更が生じたとき」「特定細胞加工物等の製造を廃止したとき」。開設者変更・法人化時の製造施設の廃止・新規届出に関する案内。
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iji/saisei/saisei_top_00006.html
4.厚生労働省「再生医療等提供計画の提出等について」
再生医療等提供計画の新規提出、定期報告、中止・終了に関する制度案内。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/plan.html
5.厚生労働省「e-再生医療」
再生医療等提供計画の新規作成、中止届、終了届等の様式作成・提出サイト。
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