今回は、医療機関でPRP(多血小板血漿)等の特定細胞加工物を製造する場合に作成する必要がある書類について説明させていただきます。
特定細胞加工物を製造する施設(=細胞培養加工施設)において作成する必要がある書類は大きく分けて2種類あります。
①基準書、手順書(製造管理や品質管理に関する基準、手順等を記載した書類)
②記録(製造管理、品質管理を行った結果等を記録した書類)
①基準書、手順書
細胞培養加工施設において作成することが求められる基準書、手順書は以下のとおりです。
・特定細胞加工物標準書
・衛生管理基準書
・製造管理基準書
・品質管理基準書
・細胞培養加工施設からの特定細胞加工物の提供の管理に関する手順書
・検証又は確認に関する手順書
・特定細胞加工物の品質の照査に関する手順書
・変更の管理に関する手順書
・逸脱の管理に関する手順書
・品質等に関する情報及び品質不良等の処理に関する手順書
・重大事態報告等に関する手順書
・自己点検に関する手順書
・教育訓練に関する手順書
・文書及び記録の管理に関する手順書
・その他、適正かつ円滑な事業の実施に必要な手順書
・製造指図書
これらの基準書、手順書の多くは日本再生医療学会により雛形が公開されています。
https://www.jsrm.jp/news/news-20150315/
ただし、日本再生医療学会が公開している雛形は主に細胞培養を伴う特定細胞加工物を想定した内容となっていますので、PRPのように細胞培養を伴わない特定細胞加工物を医療機関内で製造する場合には過剰な内容となっていることに注意が必要です。
実務的には、この雛形を活用することは有用ではありますが、そのまま使用するのではなく、実際に製造する特定細胞加工物の特性に合わせて内容を修正することが必要となります。
基準書・手順書を定めている以上はそのとおりに作業を行う必要がありますので、実際の作業と比べて過剰な内容となっている基準書・手順書で運用してしまうと、不適切な製造管理・品質管理が行われていると判断されてしまうおそれがあります。
なお、これらの書類のうち、特定細胞加工物標準書は特定細胞加工物ごと、製造指図書はロットもしくは製造番号ごと(≒製造するごとに)に作成することが求められています。
②記録
細胞培養加工施設において作成することが求められる記録は多岐にわたりますが、おおまかには以下のように分類できるかと思います。
(1)製造に関する記録(製造する度に作成)
特定細胞加工物を製造する度に作成するいわゆる製造記録です。
この記録はロットごとに作成することが要求されていますが、医療機関内で製造する場合はロットを構成しないことがほとんどですので、製造番号ごとに作成することになる場合が多いかと思います。
(2)品質管理に関する記録(製造する度に作成)
品質管理のための検体の採取や、検体を用いた試験検査の結果等に関する記録です。
記録する内容には特定細胞加工物やその原料(元となる細胞、使用する試薬等)だけでなく、資材(特定細胞加工物の容器、包装等)に関する試験検査も含まれます。
(3)構造設備の維持管理に関する記録(定期的に作成)
構造設備(製造を行う部屋、製造に用いる器具等)について、清浄度の管理や定期点検、測定機器の校正等を行った際に作成する記録です。
(4)その他の管理に関する記録(随時作成)
「検証」や「確認」、「照査」と呼ばれる作業を行った際に作成する記録や、製造・品質管理に関する手順を変更した際に作成する記録、手順からの逸脱が発生してしまった場合に作成する記録、職員の教育訓練実施に関する記録等です。
なお、本稿で挙げた書類(基準書・手順書、記録)は、一部を除いて手順書等は使用しなくなった日から10年間、記録等は作成日から10年間保管することが義務付けられています。
つまり、もしも現在適切な運用がされていない場合、最長で10年間は立入調査等によって指摘を受ける可能性があるということです。
別の記事でもお話ししたように、現時点では厚生労働省による監視監督はほとんど実施されていない状況ですが、今後監視体制が強化される可能性も十分考えられるため、将来的なことも考えて適切に書類を作成、保管しておくことが重要だと考えられます。