この記事では、2024年6月7日の参院本会議で可決され、成立した改正再生医療等安全性確保法について解説します。
①改正内容
今回の法改正には以下の2点が含まれています。
(1)細胞加工物を用いない遺伝子治療を規制対象に追加
(2)認定再生医療等委員会の設置者に対する立入調査や欠格事由の規定の整備
②細胞加工物を用いない遺伝子治療について
従来の再生医療等安全性確保法において、体外で細胞に遺伝子の導入や改変を行ったものを投与する治療(ex-vivo遺伝子治療)については、細胞に遺伝子の導入や改変を行う行為は細胞加工に該当し、加工された細胞は特定細胞加工物に該当するため規制対象となっていました。
一方で、ゲノム編集のためのタンパク質(酵素)やウイルスベクターを用いて体内で直接遺伝子の導入や改変を行う治療(in-vivo遺伝子治療)については細胞加工物を用いないため再生医療等安全性確保法の規制対象には含まれていませんでした。
しかしながら、がんの治療等を目的として一部の医療機関で細胞加工物を用いない遺伝子治療が行われているという状況を踏まえて、細胞加工物を用いない体内での遺伝子導入、改変による遺伝子治療も再生医療等安全性確保法の規制対象となる改正案が成立しました。
具体的には、遺伝子治療に用いる「核酸等」を「人の体内で当該人の細胞に導入される核酸並びに核酸及びその他の遺伝子の発現と密接な関係を有する物を加工するための機能を有する物(これらを含有する物を含む。)」と定義し、そのうち医薬品、再生医療等製品でないものを「特定核酸等」と定義しています。
そして、従来の「特定細胞加工物」と「特定核酸等」を合わせて「特定細胞加工物等」と定義し、「特定細胞加工物等」を用いる治療を再生医療等安全性確保法の規制対象としています。
なお、新たに再生医療等安全性確保法の規制対象となる細胞加工物を用いない遺伝子治療については、第1種から第3種のどれに分類されるのか等の詳細は本記事の執筆時点では不明となっています。
また、既に細胞加工物を用いない遺伝子治療を行っている医療機関については、再生医療等安全性確保法が施行された当時と同じように改正法の施行期日から1年間の猶予期間が定められ、その期間中に再生医療等提供計画を提出すれば引き続き治療を提供できると定められていますが、施行期日は交付の日から起算して1年以内における政令で定める日とされており、政令がまだ出ていないため現時点では不明です。
③認定再生医療等委員会の設置者に対する規定の整備について
これまで再生医療等提供計画を審査する認定再生医療等委員会の設置者には欠格事由が定められておらず、厚生労働省による立入調査の規定もありませんでしたが、今回の法改正によって欠格事由、立入調査の規定が整備されました。
認定再生医療等委員会による審査が公正に行われておらず、安全性や科学的妥当性の根拠が乏しい再生医療等提供計画が審査を通過して実施されているということが問題視されていたため、認定再生医療等委員会の質を担保し、確実に公正な審査が行われるようにすることを目的にこのような改正が行われました。
今後は、公正な審査が行われていないと疑われる場合は厚生労働省が認定再生医療等委員会に対して立入調査を行うことができるようになります。