
再生医療等提供計画を作成する際、提供計画本体や科学的根拠に注目が集まりがちですが、実務上とても重要なのが「説明同意文書」です。
PRP療法、脂肪由来幹細胞治療、線維芽細胞治療、免疫細胞療法などを自由診療で提供する場合、患者は治療内容、期待される効果、リスク、費用、代替治療などを理解したうえで、治療を受けるかどうかを判断します。
その判断の前提となるのが、説明同意文書です。
説明同意文書は、単に委員会審査に提出するための書類ではありません。
患者にとっては、治療を受けるかどうかを決めるための資料であり、医療機関にとっては、適切な説明を行ったことを示す重要な記録です。
本記事では、再生医療等の説明同意文書を作成・見直しする際に、医療機関が注意すべき実務上のポイントを解説します。
1. 説明同意文書は「テンプレートを埋めるだけ」では不十分
再生医療等の説明同意文書では、法令上必要な事項を記載することは当然必要です。
しかし、テンプレートに項目を並べるだけでは、患者にとって分かりやすい文書にはなりません。
特に再生医療等では、次のような内容が患者にとって分かりにくくなりがちです。
・細胞加工物とは何か
・PRPや幹細胞がどのように作られるのか
・どのような効果が期待されるのか
・効果がどの程度保証されるのか
・どのような副作用や不利益があるのか
・既存治療と何が違うのか
・費用はいつ、どの時点で発生するのか
・同意を撤回した場合に費用はどうなるのか
・健康被害が起きた場合にどう対応するのか
再生医療等を行う医師または歯科医師は、再生医療等を受ける者に対し、文書により同意を得る必要があります。また、同意を得る際には、できる限り平易な表現を用いて、文書により説明を行うことが求められています。
つまり、説明同意文書は「専門家が読めば分かる文書」ではなく、「患者が治療判断できる文書」でなければなりません。
2. 提供計画と説明同意文書の内容を一致させる
委員会審査で指摘を受けやすいのが、再生医療等提供計画と説明同意文書の不一致です。
たとえば、次のような不一致はよく問題になります。
・提供計画では18歳以上としているが、説明同意文書では20歳以上になっている
・提供計画では投与回数が1回から3回だが、説明同意文書では複数回としか書いていない
・提供計画では投与量が明記されているが、説明同意文書では記載がない
・提供計画では対象疾患を限定しているが、説明同意文書では広い症状に効果があるように読める
・提供計画ではCPC名や製造施設が記載されているが、説明同意文書には記載がない
・委員会名、連絡先、計画番号などが古い情報のままになっている
説明同意文書は、提供計画の内容を患者向けに分かりやすく説明する文書です。
そのため、提供計画と説明同意文書で内容が異なると、実際にどの治療を行うのか、患者に何を説明したのかが不明確になります。
特に確認すべき項目は、次のとおりです。
・再生医療等の名称
・対象疾患
・選択基準、除外基準
・治療の目的
・細胞の採取方法
・細胞加工物の概要
・投与方法
・投与量、投与細胞数
・投与回数、投与間隔
・フォローアップ方法
・評価方法
・費用
・健康被害補償
・委員会情報
説明同意文書を修正する場合は、必ず提供計画、添付書類、費用表、CPC資料との整合性を確認する必要があります。
3. 「期待される効果」と「効果が保証されないこと」を両方書く
自由診療の再生医療等では、患者は高額な費用を負担することがあります。
そのため、説明同意文書では、期待される効果を分かりやすく説明する必要があります。
一方で、効果を過度に強調しすぎると、患者に誤解を与えるおそれがあります。
特に注意すべき表現は、次のようなものです。
・治る
・再生する
・若返る
・根本治療になる
・副作用がない
・安全な治療である
・必ず効果が出る
・手術を避けられる
・あらゆる症状に効果がある
再生医療等では、一定の改善が期待できる場合であっても、すべての患者に同じ効果が出るわけではありません。
たとえば、PRP関節内投与であれば、変形の程度、炎症の状態、年齢、体重、既存治療、リハビリの有無などにより、効果の現れ方は異なります。
脂肪由来幹細胞治療でも、対象疾患、投与方法、投与細胞数、患者背景によって結果は異なります。
そのため、説明同意文書では、次の両方を記載することが重要です。
・どのような効果が期待されるのか
・効果には個人差があり、十分な効果が得られない場合があること
患者にとって重要なのは、期待できることだけでなく、期待どおりにならない可能性も理解したうえで判断できることです。
4. リスク・副作用・不利益は具体的に記載する
説明同意文書では、再生医療等により予期される利益だけでなく、不利益についても説明する必要があります。説明同意文書の記載事項として、提供される再生医療等の目的・内容、用いる細胞に関する情報、再生医療等を受ける者として選定された理由、予期される利益および不利益などが示されています。
実務上は、次のようなリスクを治療内容に応じて具体的に記載します。
・採血に伴う疼痛、内出血、迷走神経反射
・脂肪採取に伴う疼痛、出血、感染、腫脹、瘢痕
・局所注射に伴う疼痛、腫脹、発赤、感染
・関節内投与に伴う疼痛増悪、関節炎症状、感染
・静脈投与に伴う発熱、悪寒、嘔気、アレルギー反応
・細胞加工物に関連する感染症、品質不良のリスク
・期待した効果が得られない可能性
・追加治療や他の治療が必要になる可能性
リスクの記載で重要なのは、抽象的に「副作用が生じる可能性があります」と書くだけで終わらせないことです。
患者が具体的にイメージできるように、どの場面で、どのような症状が起こり得るのかを記載する必要があります。
また、重大な副作用や既に知られている安全性上の懸念がある場合は、たとえ頻度が低くても、患者の意思決定に影響する情報として記載することが望ましいです。
5. 代替治療との比較を入れる
説明同意文書では、再生医療等だけを説明するのではなく、他の治療方法との比較も重要です。
患者が治療を選択する際には、「この治療を受けるかどうか」だけでなく、「他にどのような選択肢があるのか」を知る必要があります。
たとえば、変形性膝関節症に対するPRPや幹細胞治療であれば、次のような代替治療が考えられます。
・運動療法
・減量
・内服薬
・外用薬
・ヒアルロン酸注射
・ステロイド注射
・装具療法
・リハビリテーション
・手術療法
美容皮膚領域であれば、次のような選択肢が考えられます。
・外用薬
・レーザー治療
・高周波治療
・注入療法
・手術療法
・経過観察
代替治療の説明では、再生医療等を優位に見せるために他の治療を過度に低く評価するのではなく、それぞれの特徴、利点、限界を中立的に記載することが重要です。
患者が複数の選択肢を理解したうえで再生医療等を選べるようにすることが、適切な説明同意につながります。
6. 費用とキャンセル時の取扱いを明確にする
自由診療の再生医療等では、費用に関する説明が非常に重要です。
特に、幹細胞治療や線維芽細胞治療では、脂肪採取、細胞加工、培養、凍結保存、投与など、複数の工程があります。
そのため、患者が途中で同意を撤回した場合や、治療を中止した場合に、どの費用が発生するのかを明確にしておく必要があります。
説明同意文書では、少なくとも次の点を整理すべきです。
・治療総額
・初診料、検査料、採取費用、加工費用、投与費用の内訳
・複数回投与の場合の費用
・細胞保管費用
・追加投与時の費用
・キャンセル料の有無
・同意撤回時の費用負担
・採取前、採取後、加工開始後、投与直前など各時点での取扱い
・返金の有無
・健康被害が生じた場合の医療費負担や補償
費用の説明が曖昧だと、患者トラブルにつながりやすくなります。
特に、「同意はいつでも撤回できます」と記載しながら、「撤回しても費用は一切返金されません」とだけ記載している場合、患者にとって不利益の内容が十分に理解できない可能性があります。
費用は、患者の意思決定に直接関係する事項です。
そのため、できるだけ具体的に、時点ごとに整理して記載することが望ましいです。
7. 細胞提供者への説明同意も確認する
再生医療等では、患者本人から細胞を採取して本人に投与する自家細胞治療が多くあります。
この場合、再生医療等を受ける者と細胞提供者が同じであるため、1つの説明同意文書で足りると考えられることがあります。
しかし、厚生労働省の令和7年5月30日付の記載要領等では、細胞提供者および代諾者に対する説明同意文書について、細胞提供者と再生医療等を受ける者が一致する場合でも作成することが望ましいとされています。また、細胞の採取方法については、用いる器具、採取する量、麻酔方法等を記載することが示されています。
そのため、脂肪由来幹細胞治療などでは、次の内容を確認する必要があります。
・細胞提供者としての説明が含まれているか
・細胞採取の方法が具体的に記載されているか
・採取量が記載されているか
・麻酔方法が記載されているか
・採取に伴うリスクが記載されているか
・採取した細胞の使用目的が記載されているか
・保管、廃棄、二次利用の取扱いが記載されているか
細胞を「採取すること」と、加工後の細胞を「投与すること」は、患者にとって別の医療行為です。
説明同意文書を作成する際には、採取に関する説明と、投与に関する説明を分けて整理すると分かりやすくなります。
8. 委員会情報と計画提出の事実を正確に記載する
説明同意文書では、認定再生医療等委員会に関する情報も重要です。
患者に対して、どの委員会で審査を受けたのか、委員会の名称、連絡先、苦情や相談の窓口などを記載することが一般的です。
ここで注意すべきなのは、「厚生労働省に認められた治療」「国が承認した治療」のように、患者が公的に有効性を保証された治療であるかのように誤解する表現を避けることです。
再生医療等提供計画を提出していることと、その治療の有効性を国が承認していることは別です。
説明同意文書では、次のような表現が適切です。
・本治療は、再生医療等安全性確保法に基づき、再生医療等提供計画を提出して実施するものです。
・本治療は、認定再生医療等委員会の意見を聴いたうえで、所定の手続きにより提供するものです。
・本治療の効果が保証されるものではありません。
患者に安心感を与えることは大切ですが、過度に権威付けする表現は避ける必要があります。
9. 説明同意文書の版管理を行う
説明同意文書は、一度作成して終わりではありません。
提供計画の変更、費用の変更、委員会情報の変更、実施医師の変更、CPCの変更、リスク情報の追加などにより、説明同意文書を修正することがあります。
このとき重要なのが、版管理です。
版管理が不十分だと、次のような問題が起こります。
・古い説明同意文書を患者に渡してしまう
・委員会で確認された版と違う文書を使ってしまう
・費用表だけ新しく、説明本文は古いままになる
・委員会名や連絡先が古いままになる
・同意取得時にどの版を使ったか分からなくなる
説明同意文書には、作成日、改訂日、版番号を記載し、院内で最新様式を一元管理することが重要です。
また、修正内容が患者説明に影響する場合には、委員会審査や変更届、軽微変更届の要否も確認する必要があります。再生医療等提供計画の変更については、内容に応じて変更届や軽微変更届の手続きが定められており、軽微変更についても変更日から10日以内の届出が必要とされています。
説明同意文書の変更は、単なる院内文書の修正ではなく、再生医療等提供計画の運用に関わる変更として扱う必要があります。
10. 委員会審査で指摘されやすい説明同意文書の例
説明同意文書について、委員会審査で指摘されやすい例を整理すると、次のようになります。
・提供計画と対象疾患が一致していない
・投与細胞数、投与量、投与回数が記載されていない
・効果を断定的に書いている
・効果が保証されないことが不明確
・リスクや副作用の記載が少ない
・代替治療の説明が不足している
・費用の内訳やキャンセル時の取扱いが不明確
・同意撤回時の費用負担が分かりにくい
・健康被害補償の内容が抽象的である
・委員会名や連絡先が誤っている
・CPC名や製造施設情報が提供計画と一致していない
・細胞採取に関する説明が不足している
・個人情報や試料の取扱いが不明確
・古いテンプレートの記載が残っている
これらの指摘は、いずれも事前に確認すれば防げるものです。
説明同意文書は、委員会審査の通過だけでなく、患者トラブルの予防にも直結します。
まとめ
再生医療等の説明同意文書で注意すべきポイントは、次のとおりです。
・説明同意文書は、患者が治療判断をするための文書である
・提供計画、添付書類、費用表、CPC資料と内容を一致させる
・期待される効果だけでなく、効果が保証されないことも明記する
・リスク、副作用、不利益を具体的に記載する
・代替治療との比較を中立的に記載する
・費用、キャンセル、同意撤回時の取扱いを明確にする
・細胞採取に関する説明同意も確認する
・委員会情報や計画提出の事実を正確に記載する
・版管理を行い、古い文書を使わない
・説明同意文書の変更時には、変更届や軽微変更届の要否を確認する
説明同意文書は、単なる提出書類ではありません。
患者の理解と納得を支え、医療機関の説明責任を果たし、委員会審査や開始後の運用を安定させるための重要な文書です。
林医療福祉行政書士事務所では、再生医療等提供計画の作成だけでなく、説明同意文書の作成・見直し、委員会指摘への対応、CPC資料との整合性確認、変更届、定期報告、疾病等報告まで、再生医療等の導入と運用をサポートしています。
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