再生医療等と設備基準

本稿では、当事務所でもお問合せいただく機会の多い再生医療等を行う医療機関の設備基準についてお話しします。
医療機関開設当初から再生医療等を行うことを予定しており、構造設備上もそれを踏まえて設計している場合もありますが、既存の医療機関が新たに再生医療等を導入するという場合の方が多く、その場合がどこの部屋で再生医療等を行うのか、ということが問題になるかと思います。

再生医療等安全性確保法及び関係法令によって定められている設備基準として、以下の3つがありますので、それぞれの基準を満たした部屋等で実施する必要があります。

  1. 細胞を入手する施設に関する基準
  2. 特定細胞加工物製造施設の基準
  3. 再生医療等を提供する施設の基準

  

1.細胞を入手する施設に関する基準

再生医療等安全性確保法施行規則では、細胞の入手について以下のように定められています。
(動物の細胞を入手する場合は追加の基準がありますが、現時点では動物の細胞を用いる再生医療等は実用化に至っていないので省略します。)

(細胞の入手)第7条
一  次に掲げる要件を満たした医療機関等において細胞の提供(細胞提供者からの細胞の提供に限る。以下同じ。)又は動物の細胞の採取が行われたこと。
イ 適切に細胞の提供を受け又は動物の細胞の採取をし、当該細胞の保管に当たり必要な管理を行っていること。
ロ 細胞の提供を受けること又は動物の細胞の採取をすること並びに当該細胞の保管に関する十分な知識及び技術を有する者を有していること。
(一部省略)
十三  細胞の提供を受ける際に、その過程における微生物等による汚染を防ぐために必要な措置が講じられていること。
十四  細胞の提供を受けた当該細胞について、微生物等による汚染及び微生物等の存在に関する適切な検査を行い、これらが検出されないことを、必要に応じ、確認したものであること。
(以後省略)

再生医療等安全性確保法施行規則

以上のように、基本的に細胞の入手について構造設備上の基準は定められていません。
診察室や処置室として通常求められる程度の管理がなされていれば、特に専用の部屋等は設ける必要はないと解釈して問題無いかと思います。

なお、在宅医療が普及していく中で在宅で再生医療等を行うことが可能なのか、という質問をいただいたことがありますが、現状の規定では「医療機関等において」と定められていることから、「等」にどこまでのものが含まれているかは不明瞭なものの、在宅診療にあたって患者様の自宅等で細胞を採取することは認められない可能性が高いかと思われます。

  

2.特定細胞加工物製造施設の基準

特定細胞加工物製造施設の基準は再生医療等安全性確保法施行規則第八十九条に規定されています(量が多いためここでは記載は省略します)。

注意点として、医療機関内で特定細胞加工物の製造を行う場合は届出制となり、外部の施設で製造する場合よりも手続き的には簡略になりますが、施設に求められる基準は同じです。
実際に、医療機関内で特定細胞加工物の製造を行っている施設で、構造設備の基準を満たしておらず改善を求められた事例も存在しています。

医療機関内でPRP(多血小板血漿)等の特定細胞加工物を製造する場合は、医療機関内の一室を細胞培養加工施設として届出を行う場合が多いですが、その場合はこの再生医療等安全性確保法施行規則第八十九条により定められた基準を満たした部屋を加工施設として用いる必要があります。

なお、実務上は加工施設として用いる部屋は天井までの壁もしくは扉によって区切られていることが求められています。
診療室、診察室等では壁と天井の間に隙間が設けられている場合が多く見られますが、その場合はその部屋単体では加工施設としては認められず、天井までが完全に区切られた一画を加工施設とすることが求められます。

特定細胞加工物製造施設についてよくいただくご質問及びその回答を二つご紹介させていただきます。

  

①専用の部屋を設ける必要があるか?

再生医療等安全性確保法における基準上、専用とすることは要求されていませんので他の用途と兼用することは可能です。
ただし、他の法令により兼用が制限されている場合はその限りではありませんので、注意が必要です。例えば、X線検査室は基本的に他の用途との兼用が認められていませんので、細胞加工施設との兼用はできません。
また、細胞加工施設として用いる場合は製造管理・品質管理の基準によって清浄度の管理等が必要となることにも注意が必要です。

  

②部屋の面積はどれくらい必要か?

再生医療等安全性確保法施行規則第八十九条では「作業を行うのに支障のない面積を有すること。」としか定められておらず、明確な面積の基準はありません。
用いる機器や作業の内容に応じて必要だと考えられる面積を自分で判断した上で、適切であるかどうかは厚生局の判断に委ねることとなります。
なお、クリーンベンチと遠心分離機を用いてPRP(多血小板血漿)を製造する施設では、5㎡ほどでも認められた事例もあり、そこまで厳しい基準を課してはいないようです。

  

3.再生医療等を提供する施設の基準

再生医療等安全性確保法施行規則では、第1種または第2種再生医療等を提供する医療機関全体における基準として、「再生医療等を受ける者に対し、救急医療を行うために必要な施設又は設備」を有していることを要求しています(特例あり)。

しかしながら、再生医療等を行う(特定細胞加工物を移植・投与する)部屋については法令上は基準は設けられていません。
そのため、通常の処置室や手術室で再生医療等を行うことができますし、他の用途で用いている部屋との兼用も問題ありません。

  

以上のように、再生医療等を行う医療機関については細胞加工施設としての基準以外には特に明確な基準は定められていません。
既存の医療機関で再生医療等を導入する場合は、細胞加工施設として用いることのできる部屋(もしくは区画)を確保できるかが重要になります。

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