【再生医療等を始めたい医療機関向け】主な再生医療等

PRP(多血小板血漿)や幹細胞を用いた治療は「再生医療等安全性確保法」により「再生医療等」として定義され、実施するためには管轄の地方厚生局(第1種は厚生労働省)に再生医療等提供計画を提出する必要があります。
再生医療等提供計画を厚生局に提出する前に(特定)認定再生医療等委員会(以下、委員会と表記します)による審査を通過する必要があり、審査においては国内外の実施状況に基づく安全性、有効性の検討結果も見られるため、どんな内容の再生医療等でも計画を提出して実施できるわけではありません。
そのため、再生医療等を始めたいと考えておられる医療機関の皆様は、まずは現在どのような内容の再生医療等が実施されているのかを知っていただいた上で、導入する再生医療等の内容を検討いただくべきであると考えております。
そこで、本記事では現在日本国内で実施されている主な再生医療等について解説します。


まずは、基礎知識として再生医療等とは何かについて説明させていただきます。
「再生医療等」とは、冒頭に書いた通り「再生医療等安全性確保法」により定められており、以下のように明確な定義が存在しています。

(定義)
第二条 この法律において「再生医療等」とは、再生医療等技術を用いて行われる医療(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第八十条の二第二項に規定する治験に該当するものを除く。)をいう。
2 この法律において「再生医療等技術」とは、次に掲げる医療に用いられることが目的とされている医療技術であって、細胞加工物を用いるもの(細胞加工物として再生医療等製品(医薬品医療機器等法第二十三条の二十五又は第二十三条の三十七の承認を受けた再生医療等製品をいう。第四項において同じ。)のみを当該承認の内容に従い用いるものを除く。)のうち、その安全性の確保等に関する措置その他のこの法律で定める措置を講ずることが必要なものとして政令で定めるものをいう。
一 人の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成
二 人の疾病の治療又は予防

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000085_20220617_504AC0000000068

重要なのは以下の2点で、この2点をどちらも満たしている治療法が再生医療等に該当します。
①細胞加工物を用いる
②「人の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成」又は「人の疾病の治療又は予防」のどちらかを目的としている

PRPや脂肪幹細胞は細胞を加工して製造されるため「細胞加工物」に該当し、それらの細胞加工物を人の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成や人の疾病の治療又は予防に用いる治療が再生医療等として再生医療等安全性確保法の規制対象になります。
一般的に再生医療というと失われた組織や器官を再生させる治療法(①)をイメージされるかと思いますが、組織や器官の再生ではない疾病の治療、予防(②)についても細胞加工物を用いる場合は再生医療等に該当します。

再生医療等は第1種〜第3種に分類されており、数字が小さくなるほどリスクが高く実施するための規制が厳しく、数字が大きくなるほどリスクが低く実施するための規制は緩やかになります。
各分類の詳細な定義は割愛しますが、使用する細胞の種類や加工の方法、治療対象によって分類が異なります。
「PRPは第3種、脂肪由来幹細胞は第2種」だと思われている方もおられますが、PRPでも治療対象によっては第2種になりますし、脂肪由来幹細胞でも加工方法によっては第3種になる場合があります。


それでは、実際に国内で実施されている再生医療等について、分類ごとに解説させていただきます。

第3種再生医療等

【PRPを用いた治療】
PRPとは、多血小板血漿の略で、血液中に含まれる血小板を遠心分離により濃縮することにより製造されます。
血小板が分泌する成長因子や抗炎症因子の働きにより、損傷した組織の修復力を高める治療法です。
以下のような様々な治療に用いられています。

①皮膚再生(美容クリニック、皮膚科等)
PRPを顔等の皮膚の再生に用いる治療法で、しわ、しみや軽い傷の治療に用いられています。

②毛髪再生(美容クリニック、皮膚科等)
PRPをAGA等の薄毛治療に用いる治療法です。
注意点として、皮膚と頭皮では構造が異なるということで、①の皮膚再生とは区別されています。

③整形外科領域の治療(関節腔内を除く)
PRPを筋肉、腱、靭帯等の関節腔内を除く関節周辺の痛みの軽減、損傷の修復のために用いる治療法で、スポーツ整形の分野で主に実施されており、著名なスポーツ選手が受けたことで話題になったこともあります。

④歯槽骨、歯周組織の再生(歯科、口腔外科)
PRPをインプラントの前処理として歯槽骨を再生したり、歯周病等の治療に用いる方法です。

ここに挙げた以外にも、最近では眼科や耳鼻科でも使用されている事例があります。

【免疫細胞療法】
NK細胞等の免疫細胞を培養して活性化させ、点滴により投与する治療法です。
がんの治療に用いるのが一般的ですが、健康な方の免疫力向上を目的として実施している医療機関も存在します。

【未培養の脂肪由来幹細胞(SVF)を用いた治療】
脂肪組織から酵素処理により分離された脂肪由来幹細胞を含む画分(間質血管細胞群:SVF)を脂肪組織が存在する場所に投与する治療は第3種に分類されます。
乳房再建や豊胸、重症性下肢虚血の治療等に用いられています。

第2種再生医療等

【PRPを用いた治療】
PRPを血流が乏しい組織に投与する場合は第2種に分類され、以下のような治療に用いられています。
なお、PRPを無細胞化しフリーズドライする手法も存在していますが、この場合は細胞を含まないため再生医療等には該当しません。

①関節痛の治療(整形外科)
変形性関節症等の関節痛の治療のためにPRPを用いる手法です。
第2種再生医療等の中では最も実施施設数の多い治療法で、関節痛の治療に特化したPRPをさらに加工するキットも存在しています。

②不妊治療(産婦人科)
PRPを菲薄化した子宮や機能不全を起こした卵巣に投与することにより、妊娠、着床する可能性を高める治療法です。
以前は不妊治療自体が自由診療であったため混合診療の問題がなくこの治療も増加傾向にありましたが、不妊治療が保険適用になったことにより新しく導入する医療機関は減少しています。

【脂肪由来幹細胞を用いた治療】
脂肪組織から酵素処理により分離された脂肪由来幹細胞を培養により増殖させ、純度を高めて局所注射や静脈点滴により投与する治療法です。
細胞培養が必要なため非常に治療費の高い治療法ですが、実施する医療機関が急激に増加しています。
なお、アンチエイジングのために静脈点滴したいというご相談もよくいただきますが、対象疾患を明確にする必要があるため、アンチエイジングで一括りにして実施することはできません。

①関節痛の治療(整形外科)
変形性関節症等の関節痛の治療のために脂肪由来幹細胞を関節腔内に局所注射する手法です。
主にPRPでは効果が見られないような重度の関節痛に用いられています。

②慢性疼痛の治療(麻酔科、内科、整形外科等)
慢性疼痛は「治癒に要すると予測される時間を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関連する痛み」と定義されており、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心理的疼痛の大きく3つのパターンに分けられます。
このような慢性疼痛の治療を目的として、脂肪由来幹細胞を静脈点滴により投与する治療法です。
ただし、心因性疼痛には効果がないか他の治療法の方が科学的合理性があるという考え方が主流で、心因性疼痛を除く侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛しか対象にできないと判断している委員会が多くなっています。
幅広い範囲が治療対象となる治療法であるため多くの医療機関が導入しようとしている治療法ですが、麻酔科医等のペインコントロールを専門とする医師がいないと委員会審査を通過できない可能性があります。

③生活習慣病に伴う動脈硬化の治療(内科等)
生活習慣病に伴う動脈硬化の治療のために、脂肪由来幹細胞を静脈点滴により投与する治療法です。
ある程度年齢を重ねると多くの人が罹患する生活習慣病に伴う動脈硬化を対象としているため、導入しようとする医療機関が増えている治療法ですが、エビデンス不足として認めていない委員会もあります。
この治療を行うためには内科医等の生活習慣病の治療に関する臨床経験を有している医師が必要です。

④2型糖尿病の治療(内科等)
2型糖尿病の治療のために、脂肪由来幹細胞を静脈点滴により投与する治療法です。
糖尿病も多くの方が罹患する疾患であるため需要の高い治療法ですが、1型糖尿病についてはエビデンス不足として2型糖尿病の治療に限定されています。
この治療を行うためには内科医等の糖尿病の治療に関する臨床経験を有している医師が必要です。

⑤皮膚再生、顔面萎縮症の治療(美容クリニック、皮膚科等)
皮膚再生のために脂肪由来幹細胞を皮膚に局所注射したり、ロンバーグ病等の顔面萎縮症の治療のために脂肪と混合した脂肪由来幹細胞を顔面に投与する治療法です。
注意点として、局所注射については実施施設が多数ありますが、静脈点滴についてはエビデンス不足で委員会審査を通過できない可能性が高いです。

その他、自己免疫疾患、肝障害、脊髄損傷、脳血管障害、重症下肢虚血(第3種でも触れましたが培養した細胞を用いる場合は第2種になります)等の治療に使用されている事例もあります。

【線維芽細胞移植】
加齢による皮膚の老化等の治療を目的として、皮膚から分離した線維芽細胞を培養により増殖させ、局所注射により投与する方法です。
PRPや脂肪由来幹細胞を用いる治療も間接的に線維芽細胞を増加させることを目的としているため、線維芽細胞移植はより直接的な効果が得られる可能性があります。
また、細胞培養が必要であるものの、脂肪由来幹細胞を用いた治療よりも安価であることから、導入する医療機関も少しずつではありますが増加しています。

【骨髄由来幹細胞を用いた治療】
骨髄由来幹細胞は脂肪由来幹細胞と同じく間葉系幹細胞に分類され、類似した性質を有しています。
以前は骨髄由来幹細胞の方が研究が進んでいたため、脂肪由来幹細胞ではなく骨髄由来幹細胞を用いた再生医療等を実施する医療機関もありましたが、現在では脂肪由来幹細胞を用いる医療機関の方が多くなっています。
なお、再生医療等とは別の枠組みで「医薬品医療機器等法」の対象である再生医療等製品として承認されている製品が存在しています。

第1種再生医療等

第1種再生医療等はiPS細胞を用いた治療が代表的で、多くはまだ研究段階にあります。
臨床現場で実施されている第1種再生医療等として同種膵島移植がありますが、民間の医療機関では実施することがないと思われるため本記事では詳細は割愛させていただきます。


以上が、国内で実施されている主な再生医療等の解説となります。
解説の中でも少し触れさせていただいていますが、これらの再生医療等を導入する際には実施医師の臨床経験等の条件がある場合もあり、国内で実施されているからといってどこでも、誰でも導入できるわけではありません。
弊所では、再生医療等提供計画を作成する前段階から、どのような再生医療等を導入するのかからご提案させていただくことが可能です。
再生医療等の導入をご検討されている医療機関様は、まずはお気軽にご相談ください。

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