令和8年7月31日通知から読み解く「再生医療等の自己点検」|何を、どこまで確認すべきか

令和8年7月31日、厚生労働省は「再生医療等の適切な提供に係る自己点検について(依頼)」(医政研発0731第1号)を発出しました。

この通知は、再生医療等提供機関の管理者、認定再生医療等委員会の設置者、特定細胞加工物等製造事業者に対し、それぞれ現在の運用を改めて自己点検し、問題があれば速やかに必要な改善措置を講じるよう求めたものです。

医療機関にとって重要なのは、単に「提供計画の書類がそろっているか」を確認する通知ではないという点です。実際に提供している再生医療等が提出済みの提供計画どおりに行われているか、医師の専門性は十分か、科学的根拠は現在の水準でも妥当か、説明同意は適切か、CPCで製造された特定細胞加工物等を医療機関自身が確認した上で投与しているかまで、実際の運用を点検することが求められています。

本記事では、令和8年7月31日の通知と、同日に厚生労働省が公表した改善命令の内容を踏まえ、再生医療等提供機関が自己点検で本当に確認すべきポイントを解説します。


1.なぜ今、自己点検が求められたのか

今回の自己点検通知が発出された背景には、近年相次いだ再生医療等に関する重大事案があります。

厚生労働省は通知の中で、令和7年8月および令和8年3月に、再生医療等の提供中に患者の容態が急変し、その後死亡が確認された旨の疾病等報告があったことなどを挙げています。その後の調査等を踏まえ、令和8年1月および7月31日に、関係する再生医療等提供機関や特定細胞加工物等製造事業者に改善命令が発出されました。

特に7月31日の改善命令に関係する事案では、外部の第三者が患者の選定、対象疾患、投与細胞数、投与方法、投与日程、投与間隔などに強い影響力を持ち、医療機関自身の主体的な判断が乏しい状態で再生医療等が提供されていたことが確認されています。

つまり、今回の自己点検通知は、単なる事務手続の再確認ではありません。「提供計画が届出されている」という形式だけでは患者の安全を確保できないことが実際の行政処分によって明らかになったため、全国の再生医療等提供機関に対して、計画と実態の双方を見直すよう求めたものと理解する必要があります。


2.自己点検の対象は「提供計画の本文」だけではない

今回の通知で特に注意したいのが、再生医療等提供計画に添付して提出する書類についても、提供計画の一部として判断すべきであると明記されている点です。

自己点検というと、e-再生医療から出力した提供計画の様式だけを確認してしまいがちですが、それでは不十分です。

例えば、説明同意文書、特定細胞加工物概要書、医師の略歴、救急医療体制に関する資料、科学的文献、CPCに関する資料なども、実際の運用と照合する必要があります。

そのため、自己点検ではまず、「現在有効な提供計画一式」を確定する作業から始めることをおすすめします。初回提出後に変更届を複数回提出している場合には、それぞれの変更内容を反映し、現時点でどの内容が有効なのかを整理しなければ正しい点検はできません。


3.厚生労働省が医療機関に求めた5つの重点確認事項

7月31日通知では、再生医療等提供機関の管理者が重点的に確認すべき事項として、大きく5つの観点が示されています。

1つ目は、提供計画どおりに再生医療等が実施されているかという基本的な確認です。併せて、令和8年3月12日の注意喚起を参照し、医療機関内の救急設備や安全管理体制が確保されているかを確認することも求められています。

2つ目は、実施責任者および実施医師の適格性です。実施責任者には対象疾患および関連分野について十分な科学的知見、医療に関する経験・知識があるか、実施医師には当該再生医療等を提供するために必要な専門的知識と十分な臨床経験があるかを確認します。

3つ目は、安全性と科学的妥当性です。治療として行う再生医療等については、その時点の科学的水準に基づき、有効性が安全性上のリスクを上回ることが十分予測される根拠があるか、既存の標準治療で十分な効果が得られないことが医学的知見上明らかであるかなどを確認することが求められています。

4つ目は、説明と同意です。期待される利益・不利益、同意撤回、他の治療法の有無、その利益・不利益との比較などについて、患者に文書で適切に説明し、十分な理解の上で文書による同意を取得しているかを確認します。

5つ目は、特定細胞加工物等の安全性です。CPCで適切な製造・品質管理が行われているかだけでなく、医師が特定細胞加工物等概要書に従った製造を行うよう製造事業者へ必要な指示を行い、投与前には実際に概要書どおり製造されたものかを確認した上で、投与の可否を判断しているかまで確認対象とされています。

この最後の点は特に重要です。「CPCが出荷したから投与する」のではなく、最終的な投与可否を判断するのは医療機関側であることが、今回の通知でも改めて示されています。


4.改善命令で実際に確認された問題から自己点検を考える

自己点検の内容を理解する上では、同じ7月31日に公表された改善命令の内容が非常に参考になります。

厚生労働省の公表資料によると、対象となった医療機関では、外部の第三者が作成した「幹細胞投与患者リスト」に従い、患者、対象疾患、投与細胞数、投与方法などが決められていました。さらに、患者の選定、投与日程、投与間隔、施術費用などについても第三者が大きく関与しており、医療機関自身が十分に主体性を持って治療内容を決定していなかったことが問題とされています。

自己点検では、CPC、紹介会社、海外事業者、コンサルティング会社等から治療スキームの提供を受けている場合でも、患者の適格性、投与細胞数、投与方法、投与間隔などを最終的に医師自身が判断しているかを確認する必要があります。

「CPCからこの量で投与するよう言われた」「紹介会社からこの患者を受け入れるよう依頼された」といった運用が常態化していないかは、今回の行政処分を踏まえると特に重要な点検項目です。


5.「患者が対象になるか」を診療録で説明できるか

7月31日の改善命令では、一部の診療録について、患者の主訴、対象疾患に関する症状、提供計画に定められた選択基準・除外基準への該当性について記載がないことも問題とされています。

これは自己点検を行う上で非常に重要なポイントです。

提供計画に適切な選択基準・除外基準を書いていても、実際の診療録に「なぜこの患者が対象となるのか」が残っていなければ、計画どおりに患者選定が行われていることを後から確認できません。

例えば、変形性関節症の重症度、既存治療歴、疼痛の程度、感染症の有無、悪性腫瘍の既往、服薬状況など、提供計画上必要とされる情報について、実際の症例記録から確認できる状態になっているかを点検する必要があります。

自己点検では書類を見るだけでなく、実際の症例を提供計画と照合することが重要です。


6.投与量・投与回数・投与間隔は計画どおりか

改善命令の対象となった医療機関では、提供計画に記載された投与間隔を空けずに特定細胞加工物等を投与していたことも確認されています。

再生医療等では、対象疾患、投与量、細胞数、投与回数、投与間隔などが提供計画に定められています。医療現場では「患者の希望」「医師の判断」「海外患者の日程」「CPCの都合」などによって治療日程を変更したくなることがありますが、提供計画の範囲を超えて自由に変更できるわけではありません。

自己点検では、症例一覧やカルテを用いて、実際の投与日、細胞数、投与量、投与回数、投与間隔を確認し、提供計画と一致しているかをチェックします。

症例数が少ない医療機関であれば、可能な限り全症例を確認する方法が確実です。症例数が多い場合でも、少なくとも変更前後の症例、有害事象があった症例、複数回投与例など、リスクの高い症例を含めて確認することが望ましいでしょう。


7.定期報告を「忘れていないか」だけでは不十分

改善命令では、ある医療機関が提出していた12件の再生医療等提供計画のうち、10件について認定再生医療等委員会および厚生労働大臣への定期報告が行われていなかったことも確認されています。

自己点検では、単に「定期報告を提出したか」を確認するだけでなく、報告内容の基礎となるデータが日常診療で適切に取得されているかも確認する必要があります。

治療前後の評価、疾病等の発生状況、投与件数、安全性、科学的妥当性などを評価するための記録がなければ、形式的に定期報告書を作成しても、内容のある評価を行うことはできません。

提供計画ごとに提出日、報告対象期間、委員会報告日、厚生局提出日を一覧化し、同時に、定期報告に必要な症例データを蓄積できているか確認することが重要です。


8.有害事象を「疾病等ではない」と自己判断して終わらせていないか

7月31日の行政処分につながった調査では、再生医療等の提供後に入院加療を要する健康被害が発生していたにもかかわらず、疾病等報告が行われていなかった事案も確認されています。

また、令和8年3月12日の厚生労働省通知では、再生医療等の影響が否定されない有害事象については疾病等として広く捉えるべきであり、疾病等に該当しないと医師が判断した場合には、その理由を記録すべきことも示されています。

自己点検では、カルテ上の「発熱」「疼痛」「悪寒」「嘔気」「呼吸苦」「入院」「他院受診」などを確認し、疾病等報告の要否について検討された記録があるか確認することが重要です。

「最終的に回復したから」「治療との因果関係がはっきりしないから」という理由だけで報告検討自体を行わない運用は避けるべきです。


9.CPCに製造を任せきりにしていないか

今回の自己点検通知では、医師または歯科医師が、特定細胞加工物等概要書に従った製造が行われるようCPCに必要な指示を行っているか、さらに投与時には概要書に従って製造されたものか確認し、投与可否を決定しているかが明確な点検項目となっています。

改善命令の事案では、医療機関が特定細胞加工物等の製造前に実効性のある指示を行っておらず、投与時にも概要書どおりに製造されたものか確認して投与可否を判断していなかったことが問題とされています。

自己点検では、CPCとの契約書だけでなく、製造依頼、出荷判定、品質試験結果、ロット情報、製造条件の変更通知など、実際に医療機関とCPCの間でどのような情報がやり取りされているかを確認する必要があります。


10.細胞・組織を「どこで、いつ採取したか」追跡できるか

改善命令では、医療機関が、患者の脂肪組織について「いつ、どの医療機関で採取されたのか」を把握しておらず、採取後の保管管理についても確認していなかったことが問題とされています。

特に海外で採取した組織、他院で採取した組織、長期間保管している細胞を利用する場合には注意が必要です。

自己点検では、採取日、採取場所、採取医師、採取方法、採取量、採取後の保管、搬送、CPC受領までを追跡できるか確認します。患者から投与までのトレーサビリティが途中で途切れていないかを確認することが重要です。


11.自己点検は「書類」「症例」「運用体制」の3層で行う

実務上、自己点検は3つの層に分けると確認漏れを減らしやすくなります。

まず「書類の点検」です。提供計画、変更届、説明同意文書、医師略歴、CPC資料、救急医療体制、科学的文献などを確認し、現在有効な内容を整理します。

次に「症例の点検」です。実際のカルテや症例一覧を提供計画と照合し、対象疾患、選択基準・除外基準、投与量、投与回数、投与間隔、同意取得、ロット情報、治療前後評価、有害事象などを確認します。

最後に「運用体制の点検」です。管理者が状況を把握しているか、実施医師の変更が適切に処理されているか、CPCとの情報共有が機能しているか、疾病等や不適合を速やかに報告できる体制があるか、救急医療体制が現在も実効性を有しているかを確認します。

この3層を確認しなければ、「書類上は問題ないが、現場では別の運用になっている」という状態を発見できません。


12.自己点検は年1回行えばよいのか

今回の7月31日通知では、「年1回」「半年ごと」といった自己点検の具体的な頻度は定められていません。また、一律の様式による自己点検結果の提出を求める内容にもなっていません。

一方、令和8年3月12日の注意喚起では、再生医療等提供機関の管理者に対して、院内で行われる再生医療等が提供計画に従い適切に行われることを「随時確認する体制」を確保することが求められています。

したがって、「7月31日の自己点検を一度実施すれば終了」と考えるべきではありません。

実務上は、今回の通知を受けて一度総点検を行った上で、実施医師の変更、CPCや製造方法の変更、説明同意文書の変更、救急医療体制の変更、疾病等・不適合の発生、法令・通知の改正など、運用に重要な変化が生じた際に改めて確認する体制を整えることが重要です。

また、定期報告の準備時に、過去1年間の症例と提供計画の整合性を確認することも有効です。これは法令上定められた自己点検頻度ではありませんが、定期報告内容の正確性を担保するための実務上有用な運用です。


13.自己点検結果は記録として残しておく

7月31日通知では、全国の医療機関に対して一律に自己点検結果を所定様式で提出することまでは求めていません。しかし、自己点検を実施したのであれば、結果を院内記録として残しておくことをおすすめします。

少なくとも、点検実施日、点検対象となった提供計画、確認した書類、確認者、確認した症例、発見した問題、是正内容、是正完了日などを記録しておくとよいでしょう。

自己点検で問題が確認された場合には、単にチェック表に「不適合」と記載して終わるのではなく、変更届、不適合報告、疾病等報告、院内手順の変更、職員教育など、問題の内容に応じた是正措置を検討する必要があります。

行政手続きの要否に判断がつかない場合には、自己判断で処理せず、所管の地方厚生局へ確認することが重要です。


自己点検で最低限確認したいチェックリスト

  • 現在有効な提供計画と全ての変更履歴を整理している
  • 添付書類を含め、現在の実際の運用と一致している
  • 管理者・実施責任者・実施医師が現在の体制と一致している
  • 実施医師が必要な専門知識・臨床経験を有している
  • 対象疾患、選択基準・除外基準への適合性を診療録で確認できる
  • 投与細胞数、投与量、投与回数、投与間隔が提供計画どおりである
  • 患者への説明・同意が最新の文書で適切に行われている
  • 科学的根拠が現在の水準でも妥当である
  • 救急医療体制が現在も実際に機能する
  • CPCへの製造指示と、投与前の品質確認を医療機関側で行っている
  • 細胞・組織の採取から投与まで追跡できる
  • 有害事象について疾病等報告の要否を適切に検討している
  • 不適合の発生状況とその後の対応を管理している
  • 定期報告を全て期限内に実施している
  • 症例ごとの治療前後評価が記録されている
  • CPCや外部事業者に医学的判断を委ねる運用になっていない
  • 自己点検で見つかった問題について是正措置を実施している

まとめ

令和8年7月31日の「再生医療等の適切な提供に係る自己点検について(依頼)」は、単に書類の形式を確認するための通知ではありません。

同日に公表された改善命令では、第三者による患者選定や投与内容の決定、提供計画から外れた投与間隔、定期報告の未実施、患者適格性・治療前後評価の記録不足、CPCへの指示や投与前確認の不足など、実際の運用に関する問題が多数確認されています。

今回求められている自己点検で最も重要なのは、「提出した提供計画」と「現在行っている医療」が本当に一致しているかを確認することです。

自己点検は、書類だけではなく、実際の症例、診療録、CPCとのやり取り、救急医療体制、疾病等・不適合への対応まで含めて確認する必要があります。

また、今回の通知には自己点検の具体的な頻度は定められていませんが、管理者には提供計画どおりに再生医療等が行われていることを随時確認する体制が求められています。今回の通知を契機に総点検を行うとともに、その後も重要な運用変更や定期報告などの機会を利用して、計画と実態のずれを早期に発見できる仕組みを作ることが重要です。

林医療福祉行政書士事務所では、令和8年7月31日の厚生労働省通知を踏まえ、再生医療等提供計画と実際の運用状況の確認、症例記録・説明同意文書・CPC資料の照合、問題点の整理、必要な是正手続きまで、再生医療等の自己点検をサポートしています。

再生医療等を既に提供しており、「現在の運用が提供計画どおりになっているか確認したい」「自己点検をどこから始めればよいか分からない」という医療機関様は、お気軽にご相談ください。


一次資料

厚生労働省「再生医療等の適切な提供に係る自己点検について(依頼)」(令和8年7月31日 医政研発0731第1号)

厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく改善命令等について」(令和8年7月31日)

厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき再生医療等を提供するにあたり医療機関が留意すべき事項について(注意喚起)」(令和8年3月12日 医政研発0312第2号)

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